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何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『アイ,ロボット』2018/09/21 UP 放送日時

ロボットがロボット三原則を破るとき

 『アイ,ロボット』は監督アレックス・プロヤス、主演ウィル・スミスで映画化されたSFアクション映画で、SF小説の巨匠アイザック・アシモフの短編集「われはロボット」を元にしているが、ストーリーはまったくのオリジナルだ。

 舞台は2035年のシカゴ。今ではゴミ清掃や犬の散歩などの“下級な”労働はすべてUSロボティックス社製のロボットに任されている。ロボット工学の第一人者アルフレッド・ラニング博士(ジェームズ・クロムウェル)が高層ビルのオフィスから投身自殺をとげ、シカゴ警察殺人課のスプーナー刑事(ウィル・スミス)が捜査を担当することになる。博士はどうやって分厚いガラスを壊して身を投げたのか。手がかりは博士の残したホログラムの遺書と「ヘンゼルとグレーテル」の絵本、そして博士がプログラミングした新しいNSー5型ロボット“サニー”だった。ロボット嫌いのスプーナーは、博士が死ぬ直前まで一緒にいたサニーに疑いの目を向けるが、ロボット心理学者のスーザン・カルヴィン博士(ブリジット・モイナハン)は、ロボット三原則がある以上、ロボットが人間を害することはありえないと否定する。やがて街中の古いロボットが最新のNS-5型に交換されていく。しかし、それらは人間に“服従”しないロボットだった…。

 ロボット三原則を簡単に言うと、1)ロボットは人間を守る。2)ロボットは人間の命令に服従する。3)1と2に反しない限り、自分を守る、というもの。アシモフの「われはロボット」は、この三原則が引き起こす様々な問題を描いた短編集だが、映画『アイ,ロボット』もまた、ロボット三原則が引き起こす問題をテーマにしており、一見そうはみえないが、非常にアシモフ的な映画なのである。

 冒頭の夢の場面で、スプーナーが交通事故で車ごと川に落ち、ロボットに救われるシーンが登場する。スプーナーは、ロボットが自分と隣の車の少女との生存率を比べ、救われる可能性が高い自分を選び、未来のある少女を見殺しにしたことでロボット嫌いになる、というスプーナーの背景を説明する大事なシーンだが、それと同時に、ロボットは複数の人間を前にしたとき、全員を助けられない場合は、より有効な方を選択(そうでない方を見殺しに)するという、三原則にあてはまらない場合があることを暗示する、映画のテーマにつながるシーンでもある。

 映画の舞台、地球温暖化が進んだ未来のシカゴでは、気温が上昇し、干上がったミシガン湖は古いロボットを入れたコンテナー置き場になっている。このままいけば人類は滅亡するだろう。そのとき、ロボットは人類を救うために何をすればいいのか?

 テーマは重いが、ウィル・スミスのキャラも手伝って、映画はおどろくほど軽いタッチに仕上がっている。ウィル以外の出演者は、USロボティックス社社長のブルース・グリーンウッドも、すべての鍵を握って死ぬラニング博士のジェームズ・クロムウェルも、紅一点のブリジット・モイナハンも、いい役者だが、スターというほどではなく(失礼)、ギャラの大半はウィルの出演料で、それ以外の製作費はすべてCGに費やされた感がある。さすが『ダークシティ』のプロヤスだけあって、CGと実写との合成が見事だし、スピード感も半端ない。特にヴァーホーヴェン版『ロボコップ』に出てくるED-209によく似たブルドーザー型ロボットに破壊される家から、ウィルが猫を連れて脱出するシーン(『エイリアン』へのオマージュ?)が素晴らしい。あの演技のほとんどを、ブルースクリーン(実際はグリーン)の前で演じたかと思うと二重に感服する。

 最初に見たときはプロヤスらしいビジュアル優先の作風に幻惑されて、勢いで流して見てしまったが、今回じっくりと見直してみたら、細部まで(たとえば未来の暑さの描写など)しっかり描き込んでいるし、何よりもロボット三原則の矛盾を突くテーマが深い。もしかしたら、CGのあらが目立ちやすい大きなスクリーンより、茶の間で見る方がより楽しめる作品かもしれない。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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