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『ディパーテッド』2018/03/23 UP 放送日時

聖職者か犯罪者か。名匠スコセッシが込めた思いとは?

 『ディパーテッド』はマーティン・スコセッシのファンにとって複雑な思いを抱かせる映画である。作品賞を始めとする、アカデミー賞4冠に輝き、悲願の監督賞をスコセッシにもたらしてくれた映画ではある。が、『レイジング・ブル』や『グッドフェローズ』といった誰もが認める名作で獲れなかったのに、なぜこの映画で?しかも香港映画のリメイクで?という思いにとらわれてしまうからだ。しかし、公開から十年以上経った今見ると、当時は見えなかった面白さとスコセッシの隠された思いが見えてきた。

 舞台はボストン南部、アイルランド系住民が多く、低所得者用の団地がある“サウシー”と呼ばれる犯罪多発地域。ここを縄張りにするマフィアのボス、フランク・コステロ(ジャック・ニコルソン)は、ある日、父親を亡くしたばかりの少年に出会い、彼を我が子のように助ける。それは、成長した彼コリン・サリバン(マット・デイモン)を警察学校へ入れ、スパイとして警察に潜入させるためだった。一方、家族が犯罪組織の関係者ばかりという環境で育ったビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)は、自分のルーツと決別するために警察学校に入るが、州警察の特別捜査課SIUで囮捜査を担当するクィーナン警部(マーティン・シーン)とティグナム巡査部長(マーク・ウォールバーグ)に目をつけられ、囮捜査官としてコステロの組織に潜入することになる。現場で手柄を立てたコリンもSIUのエラービー警部(アレック・ボールドウィン)の下に配属され、コステロの組織を壊滅させるFBIとの特捜班に加わる。二人はすぐに頭角を現すが、やがて互いの組織がスパイの存在に気づき、二人の身に危険が迫ってくる…。

 元となった香港映画『インファナル・アフェア』で言えば、トニー・レオンの役がディカプリオ、アンディ・ラウの役がデイモンだ。が、似ているのはここまで。『ディパーテッド』には、もう1つの元ネタがある。それが、ジョニー・デップ主演で映画化された『ブラック・スキャンダル』である。デップの演じた実在のアイリッシュ・マフィア、ジェームズ・バルジャーこそ、ニコルソンの演じたコステロなのである。舞台をスコセッシの古巣ニューヨークでなく、ボストンに設定したのは、このバルジャーの存在があったからだ。『ブラック・スキャンダル』を見た後で『ディパーテッド』を見直すと、映画の背景と、人間の二面性というテーマがさらによく見えてくるはずだ。

 見どころは、まずは豪華なキャスティングだろう。レオナルド・ディカプリオとマット・デイモンのダブル主演。それにジャック・ニコルソン、マーティン・シーン、マーク・ウォールバーグ、アレック・ボールドウィンが脇を固める。紅一点、ケリー・チャンが演じた精神分析医役には、『マイレージ、マイライフ』で注目される前のヴェラ・ファーミガを抜擢。ディカプリオは役の歳に合わなくて製作に回ったブラッド・ピットに代わったもので、若さに渋さが加わり始めた一番輝いている時期。一方のデイモンも、ソダーバーグの「オーシャンズ」シリーズと「ジェイソン・ボーン」シリーズが始まった頃で、これまた一番輝いている時期。二人ともツヤツヤでピカピカである。

 撮影は、昨年惜しくも亡くなったドイツ出身の名撮影監督ミヒャエル・バルハウス。彼が撮影したスコセッシの代表作『グッドフェローズ』とはまったく違う、原色を強調した色調で、B級ギャング映画風のルックを作り出している。B.級というのは、おそらく、スコセッシはこの映画を過去に自分の撮ったギャング映画のパロディ、ないしはオマージュとして作ったのではないかと思うからだ。

 それに、スコセッシが思ったよりずっとこの映画に思い入れがあったという証拠がある。ニコルソンにしゃべらせる“聖職者か犯罪者か”という台詞だ。ニューヨークのリトルイタリーでギャングに囲まれて育ち、一時は聖職者を目指したスコセッシこそ、マット・デイモン演じるコリンそのもの。SIUに配属されたコリンが、金色に輝く教会の丸屋根が見える部屋を借り、その丸屋根を毎日眺めて暮らす気持ちは、犯罪者にならずに映画監督になったスコセッシには一番よく分かるはずだからだ。

 その“聖職者か犯罪者か”というニコルソンの台詞には続きがある。“弾丸を込めた拳銃を突きつけられたら、どっちだって同じことだ”。どっちだろうと、死んだら終わり。『ディパーテッド』という題名の意味は“逝った者”、つまり“死者”のことである。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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