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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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アカデミー賞結果2018/03/09 UP

勝ったのはメキシコだった?

 現地時間3月4日夜、ロサンゼルスのドルビー・シアターで第90回アカデミー賞授賞式が行われた。今年の司会は去年に続き2度目のジミー・キンメル。作品賞を読み間違えるという昨年の前代未聞の不祥事をギャグにしたオープニングで始まり(封筒を間違って渡した真犯人、ブライス・ウォーターハウス・クーバース会計事務所の担当2人はアカデミーから永久追放され、封筒は表に何賞か分かるように改良された)、昨年のプレゼンター、ウォーレン・ベイティとフェイ・ダナウェイの『俺たちに明日はない』カップルが再登場し、今度は無事に作品賞を読み上げて幕を閉じるという演出。また、#MeToo やTime’s Upなどの反セクハラ運動や、銃乱射事件が起きた高校へのエール、トランプ政権の移民対策への批判などの政治的なアピールが多く、こういう機会をとらえて意思表示しようというアメリカのエンターテインメント業界の断固とした姿勢を羨ましくも思った。

 さて受賞結果を見ると、最多ノミネートの『シェイプ・オブ・ウォーター』が、作品、監督、美術、作曲の4賞でトップ。続いて『ダンケルク』の編集、音響編集、録音の3賞、以下、『スリー・ビルボード』の主演女優、助演男優の2賞、『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』の主演男優、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の2賞、『ブレードランナー2049』の視覚効果と撮影の2賞、『リメンバー・ミー』の長編アニメーションと主題歌の2賞と、『シェイプ・オブ・ウォーター』が飛び抜けて強かったというより、候補作がまんべんなく賞を獲ったという印象だ。前回、予想の原稿を書いた後、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』を試写で見て、トーニャの鬼ママを演じたアリソン・ジャネイの怪演に受賞を確信したので、主演と助演の4賞はまさに予想通りの鉄板。ゲイリー・オールドマンの主演男優賞と辻一弘のメイクアップ賞は対のようなものなので、今年は予想しやすい年だった。

 今年の波乱は、『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドノーが監督賞ノミネートに外れたうえに、固いと思っていた脚本賞を獲れなかったこと。逆に、『ゲット・アウト』が3部門でノミネートされたうえに、ジョーダン・ピールがマーティン・マクドノーを抑えて脚本賞を受賞したことは驚きで、ハリウッドの根強い身内びいきを感じさせられた。

 今回最も嬉しかったのは、コーエン兄弟の作品で知られる名撮影監督ロジャー・ディーキンスが『ショーシャンクの空に』以来14回目のノミネートでやっと受賞したことだ。彼の弟子のような撮影監督が次々に受賞する中で、さすがにアカデミー会員も変だと思ったに違いない。ディーキンス本人もこれで七不思議などとネタにされずに済んでホッとしたことだろう。

 さて、今年の授賞式を俯瞰して特徴的だったのは、メキシコ人監督ギレルモ・デル・トロの『シェイプ・オブ・ウォーター』とメキシコの死者の日を題材にしたアニメ『リメンバー・ミー』の2本だろう。デル・トロの受賞スピーチにもあったように、移民問題、特にトランプ政権がやろうとしている若い移民救済制度の撤廃に、アメリカの良識ある人たちが強く反対している。そんな国内の風潮がメキシコへの追い風になったのだろうか。今年のアカデミー賞で一番勝ったのは、もしかしたらメキシコだったのかもしれない。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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