吹替王国

#5 声優:山路和弘

2016年2月某日。映画・舞台・ドラマ・アニメ・ゲームなど、吹替以外のフィールドでも活躍している山路和弘さんが番宣CM収録のためスタジオ入り。「ジェイソン・ステイサム『ハミングバード』編」、「アル・パチーノ『ミッドナイト・ガイズ』編」、「山路和弘登場編」の3バージョンを制作。普段の現場とは違う雰囲気の中で楽しそうに演じる山路さんは本番でも完璧な演技を披露。素敵な番宣CMができあがりました。

ステイサムは少しずつ脂がのって変化したけど…

── まずは、「吹替王国」に山路さんが選ばれたことについて、ご感想をいただけますでしょうか。これまでも藤原啓治さん、大塚明夫さん、玄田哲章さん、小山力也さんとレジェンドの皆さんが特集されていますが。

ものすごく晴れがましい気持ちです。最初は「なんでなんで?」と思い、びっくりしましたけど、長くやってきたおかげかな、と思いました。今までの声優の方の番宣CMを拝見したんですけど、玄田さんのは笑い転げました。『ターミネーター2』の「げげん玄田だ!」っていうやつ、あれはやられたなぁって。転げ落ちちゃったもん(笑)。

── さきほど番宣CMの収録が終わったばかりですが、いかがでしたか?

色々な映画に出ている何人もの俳優を続けて収録すると、全部同じだってことがバレるんだよね(笑)。「どうしよう、まいったな」って思いました。でも楽しんでできました。全然違う言葉を入れて遊んだりするのは嫌いじゃないんです。

── 持ち役であるジェイソン・ステイサムは、1998年の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』から20年近く経ちますが、演じていく中で変化していることはありますか?

ステイサムは『ロック、ストック~』の頃はサラサラ~っと芝居していたんですけど、最近はギトギトになってきた感じがします。少しずつ脂がのって色の重みは増していくんだけど、「こいつ上手いな」っていう技を使うタイプじゃないんで、僕が演じる上では変わらないです。もうちょっと変わりたいくらい(笑)。僕の声と彼の声は、もともと似てるし、長くやっていると間合いも合ってくるので、余計なことをしなくて済むという感じです。

色々な人を長く演じていると「この人はどんどん上手くなっていくな」っていう人もいます。例えば『シュリ』のソン・ガンホは、役者として磨かれていくのが分かって、悔しい気持ちになったことがありました。

── 『ハミングバード』で大変だったシーンなどはありますか?

やる上においては、いつものステイサムではあるんですよ。でもステイサムがいつも出ている映画の中では異色だった。ヨーロッパ映画のにおいが強いじゃないですか。なんともいえない静けさがあって、あれは大好きでしたね。ステイサムの髪も長いし(笑)。

アル・パチーノはどうしても悪役のイメージ

── アル・パチーノで言うと、「ゴッドファーザー」の時と、今回ムービープラスで放送する『ミッドナイト・ガイズ』では、だいぶ役どころが違いますよね。

アル・パチーノは歳をとってからは『ミッドナイト・ガイズ』みたいな薄汚れた役が多いですね。自分で居場所を探したんですかね。『ミッドナイト・ガイズ』はバカなシーンがいっぱいあって楽しかったな。
僕が最初にやったアル・パチーノは、確か『スカーフェイス』で悪役から演じてるもんだから、どうしても悪役のイメージしかなかったんですよね。「ゴッドファーザー」で、割とスッとしている時に「さぁ、どうしようかな」って思いました。ハマるのかなぁって。僕は野沢那智さんみたいにはできないから。

── 役者が同じでも、作品や役柄によってキャラクターがコロコロ変わる時は意識して演じ分けているんでしょうか。

そうですね。アル・パチーノは上手くて色んなことができる人なんですけど、自分の色を大切にしているところはありますよね。クリストフ・ヴァルツもそうかもしれないんだけど、“自分を違うところに置いちゃっている”という感じがして、割と僕は好きです。クリストフ・ヴァルツを演じている時は、自分の楽しみとして彼らを見ている感じですね。役者の変わり方にも種類があるんですよね。彼らに教えてもらっているっていう感じがします。

── 『おとなのけんか』は密室で繰り広げられる会話劇が魅力の作品です。他の声優との掛け合いはいかがでしたか?

割と付き合いが長くて息を合わせやすい人たちだったので、現場は楽しかったですね。ただ、クリストフ・ヴァルツは上手いから吹替えるのが難しくて・・・そこら辺の苦労はありました。

── 収録前に役作りはされるんでしょうか。

それはないですね。「ここは絶対にハズしたくない」とか、「この表情は絶対にいただくぞ」という風に映画を観ると、だんだん役が見えてくるというか。ちらっと見せる表情が気になったら、逆算して「ということは、ここでこうでないと、あそこへいかないんだ」っていうのが後で出てきたりして。余裕がないとできないんですけど、楽しい作業ですね。

楽しいのはやっぱり悪役

── 山路さんは声優になる前にすでに役者として活動されていたんですよね?

舞台から始まっています。声優をやり始めたのは、30年くらい前、あるテレビ局のプロデューサーが芝居を見に来て、声をかけてくれたのがきっかけです。昔はね、外国映画の声をあてるのって、一度みんなで集まってフィルムで映画を観て、あくる日みんなで“せーの”で収録していたんです。どこで入ればいいのか全然分からなくて「これは無理だ」と思ったんです。だけど、ビデオをもらって家で準備ができるようになってから「なんだよ、時間くれるんだったらやるよ」みたいな(笑)。ちょっと復讐心も燃えてきたりして(笑)。僕は、声優としてスタートするのは遅かったんですよ。34~5歳くらいからですから。

── 吹替えの仕事をしてみて、どうでしたか?

最初、犯人役が続いて、すごく楽しかったんです。舞台でも悪役を演じるのは好きなんですけど、舞台も吹替えも変わらないんだな、と思って、これだったら続けられると思いました。だんだん良い人役が増えてきたんですけどね(笑)。

── 悪役の楽しさって、どういうところなんですか?

そりゃあ、出てきただけでお客さんが嫌な顔になる感じのにおいっていうんですか。それはやっぱり、我々の商売としては堪らない蜜の味ですからね。昔、舞台で蛇の役をやった時、舞台に出て客席をなめまわすように眺めると、お客さんが顔をそむけるんですよ(笑)。その時に、「これはやめられないな」と思ったんです。悪役楽しいですよ。どこまで嫌がってもらえるんだろうって(笑)。

── 声優さんによっては、吹替えと舞台ではまったく違うやり方でやるとおっしゃる方もいると思いますが。

僕はそういうのはないですね。きっと、そういう人は腕があるんですよ(笑)。僕は、ダラ~っとした役、私生活が乱れてるとか、ドロップアウトしたとか、はっきりしゃべらないような役が多いですね。だから、きちんとセリフが分かるようにしゃべるようにということだけは気をつけています(笑)。それが、声優としての自分の中の戒めです。

── 昔はご自身の声にコンプレックスがあったと伺いました。

ものすごくありましたね。20歳過ぎくらいの養成所時代は特にありました。この業界って声がいい人が多いじゃないですか。凛とした声の人とか。僕なんてこんなガシャガシャ声で、みんなでしゃべると「お前の声だけ聞こえないんだよ」ってよく言われて。まさか声で商売できるとは夢にも思わなかったです。

── ゲームやアニメなどもやられていますよね。現場によって雰囲気は違うものですか?

全く違いますね。ゲームって一人で収録することが多いから心置きなく「もう一回!」ってやり直せて(笑)じっくり向き合ってるっていう感じだし、アニメは音がないから、横にいる相方の声が直に来るような気がしますし、吹替えの場合は映画の中の役者たちと一緒にやっている感じがします。

── ご自分の吹替映画をご覧になることはありますか?

僕は自分が出ている映像を観るのがものすごく嫌なんですよね。でも、吹替映画の場合は「上手い上手い」と言いながら観られるんです(笑)。芝居はこの人たちがやってる、という感覚があって、吹替えは芝居を一から作るということではなくて、気持ちを入れて声をあてていくという、だからちょっと引いて見ているのかもしれない。

── 普段映画をご覧になる時は吹替が多いですか?あえて吹替でご覧になることはありますか?

いやいや、やっぱり字幕です。世代だと思いますけどね。参考にして観ても、声優の顔が浮かんできちゃって(笑)。どうしても玄田さんにしか見えなかったり (笑)。参考にするとしたら、自分が演じている役者を吹替えている声優さんの作品を観ますかね。

── 山路さんにとって、声優の仕事とは?

修行?(笑)。出ている役者さんに教えられることってたくさんあるんです。ここの息つぎの仕方は絶妙だな、とか思うと、自分が知らない間に使っていることってあるんですよね。ハリウッドの役者は色んな役をやってすごいな、って。一度、頭の中を割って見てみたいです(笑)。

── 声優を目指している人に一言お願いします。

自分のやり方は、自分でやって体感しないとできてこないと思うんです。ふっと、自由になれる時ってあるんですよね。呼吸が不自然じゃなくなれば「いただいた!」って感じがしますね。10年以上は絶対かかります。声優の仕事って技術職なところがありますから時間はかかりますよ。だから「体感できるまで、とにかく頑張れよ」って言うしかない気がしますね。でも今の若い子はみんな上手いですよ。

── 最後に、視聴者の方へのメッセージをお願いします。

続けて観ると声が同じだってバレるんで、どうか間をあけて観てください(笑)

プロフィール

山路和弘(やまじ かずひろ)

1977年、青年座研究所を経て同劇団に入団。2011年に第36回菊田一夫演劇賞を受賞。舞台のみならず、映画、ドラマでも活躍。またジェイソン・ステイサム、ヒュー・ジャックマン、ショーン・ペン、ラッセル・クロウ、ソン・ガンホなど多くの役者の吹き替えを担当。

主な出演作品
映画 「日本のいちばん長い日」「駆込み女と駆出し男」
ドラマ「ナオミとカナコ」(フジテレビ系)、大河ドラマ「軍師官兵衛」
舞台 「二人だけのお葬式」「三文オペラ」など

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