映画の処方箋

Vol.183

『アカデミー賞結果』

レオ悲願の初受賞だけではなかった今年の授賞式の見どころ。

 2月27日の夜、ハリウッドのドルビー・シアターで開かれたアカデミー賞授賞式。結果は、私が固いと予想した3賞(主演男優、長編アニメ、外国語映画)は予想通り固かったが、『レヴェナント: 蘇えりし者』が予想外に強く、監督のイニャリトゥは2年連続、撮影のルベツキは3年連続の受賞となった。意外にも『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が大いに気を吐いて技術関係の賞をほとんど独占し、最多6部門受賞。そして、最高賞にあたる作品賞には、私の願いが叶ってインディーズ系の『スポットライト 世紀のスクープ』に栄冠が輝き、終わってみれば非常にバランスのとれた結果になった。

 さて、今年最大の注目はレオナルド・ディカプリオ初受賞なるか、だった。19歳のときに『ギルバート・グレイプ』で助演男優賞に初ノミネートして以来、ノミネート5回目にして初のオスカーを手にしたレオは、さすがに何度もリハーサルしてきたからか、あるいは名優だからか、少しも動揺をみせずに壇上にあがり、感謝の言葉と地球温暖化防止のアピールを述べた。むしろ、最前列で目に涙をためて喜んでいたケイト・ウィンスレットの方が感動的だったかも。これで史上最多受賞作『タイタニック』で唯一ノミネートから外れて以来ケチのついたレオとアカデミー賞との関係も修復されるに違いない。

 実はレオの初受賞以上に大きく報道されていたのは、1月14日のノミネート直後にスパイク・リーやジェイダ・ピンケット=スミスらが訴えた黒人差別問題だった。私はスパイクが授賞式のボイコットを公表したとき、作品がノミネートもされてないのにボイコットだなんて変なことを言うと思ったが、実は彼は名誉賞を受賞しており(他に女優のジーナ・ローランズとデビー・レイノルズも)、スパイクも当然出席するはずだったのだ。今年の授賞式は、そんな黒人差別に異議を唱えた彼らに対するメッセージになっていた。

 まずはパブリック・エネミーの<ファイト・ザ・パワー>が流れる中、司会のクリス・ロックが現れ、10分間のオープニング・トークをすべてハリウッドの人種差別問題についてのジョークに費やした。今年も多くの黒人俳優がプレゼンターとして登場したし、合間合間のクリス・ロックのトークも徹底して黒人差別、多様性についてに終始し、“どうせなら男優賞、女優賞という差別もやめたらいい”とまで言い切った。式の半ばで、2013年からアカデミー協会会長を務める初のアフリカ系アメリカ人シェリル・ブーン・アイザックスが登場し、“これからアカデミー協会は変わる”とスピーチ。極め付けはオープニングとクロージングで流れたパブリック・エネミーの<ファイト・ザ・パワー>だ。スパイク・リー唯一のアカデミー賞ノミネート作『ドゥ・ザ・ライト・シング』の主題歌で、スパイクが授賞式を見ていたなら、このラップがアカデミー協会から彼に充てたメッセージだとわかったはずだ。

 世界の映画産業の頂点に立つ賞だけに、いろいろ批判はあるだろう。けれども、批判を真摯に受け入れ、修正しようとする姿勢に、アメリカの民主主義の底力を見た気がした。今年のアカデミー賞授賞式は、受賞者よりも授賞式自体に意義があったと言っていいかもしれない。

もっと見る

ライター 斎藤敦子のプロフィール

前へ次へ

HOMEへ戻る