映画の処方箋

Vol.117

『第9地区』

南アフリカという特殊な環境が生んだ異色のSF映画

エイリアンという言葉が地球外生命体(いわゆる宇宙人)を指すようになったのは、リドリー・スコットの『エイリアン』が世界的な大ヒットになったのがきっかけだ。それ以前にエイリアンといえば、まずは異邦人という意味で、たとえば外国の空港の入国審査で、その国のパスポートを持たない人々が並ぶ窓口がAlienだった(ただし、日本の空港では少し前からForeignerと表記されている)。ニール・ブロムカンプの『第9地区』は、宇宙人であり異邦人であるエイリアンという言葉の二重性をギャグに使った異色のSF映画である。

舞台は20年前から宇宙船が空に居座っている南アフリカの首都ヨハネスブルグ。最初は大歓迎されたエイリアンたちだが、ゴミをあさり、繁殖するだけの彼らは、“エビ”と仇名されて、地域住民の怨嗟の的になっている。南ア政府は、スラム化した第9地区から、さらに200キロ離れた収容所にエイリアンたちを隔離することにし、多国籍企業のMNU社に作業を委託する。責任者に抜擢されたのがエイリアン課のヴィカス(シャルト・コプリー)である。エイリアンの家を1軒1軒訪ね、立ち退き許諾書にサインをもらううちに、クリストファー・ジョンソン(ジェイソン・コープ)という名の子連れエイリアンの家で謎の液体を浴びて、体の半分がエイリアンに変身し始める。実はクリストファーは司令船を修理し、母船を動かして故郷の星へ帰ろうとしており、謎の液体は司令船を動かすために、彼が苦労して集めた燃料だった…。

最新作『エリジウム』が今月公開される監督のニール・ブロムカンプは1979年ヨハネスブルグ生まれ。カナダのバンクーバーにある映画学校で3Dアニメと特殊効果を学び、3Dアニメーターとして映画界に入った。彼が作った短編が『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンの目にとまり、バックアップを得て作った長編デビュー作『第9地区』で世界中をアッと言わせた。

そんなブロムカンプが十代の頃に入り浸っていたのが、ヴィカスを演じたシャルト・コプリーが創立した製作会社だった。ブロムカンプより6歳年長のコプリーもまた、25歳の若さでテレビ映画製作会社を創設したという経歴の持ち主で、いわば南アが生んだ2人の早熟の才能が合体して生まれたのが『第9地区』なのである。
 この映画が面白いのは、低予算を逆手にとって、ドキュメンタリー仕立てで作られているところだ。脚本があるが、演出は即興。これほど特撮が多用された映画で、これほど即興演出が使われた例は珍しく、まさに3Dアニメーターだったブロムカンプだからこそ可能だった手法と言えるだろう。

こうして映画がリアルになると、ヨハネスブルグの空に来訪したエイリアン(宇宙人)が、招かれざるエイリアン(異邦人)の隠喩であることがより明確になる。最初は歓迎され、支援団体の手厚い保護を受けたエイリアンたちが、やがては嫌われ者となり、さらに遠隔地に隔離されることになる(まさにアパルトヘイト政策だ!)ナイジェリア人居住区のギャングとの取引に使われる猫缶が救援物資の横流しだったりするところには、現実へのヒリヒリするような批判と笑いがある。こんな痛快なSF喜劇が、南アフリカという複雑な問題を抱えた国で生まれたことは、歴史の皮肉か必然だろうか。ともあれ、『エリジウム』よりアイデアでは勝っている『第9地区』は必見の1本だ。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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