映画の処方箋

Vol.102

「エデンの東」

ジェームズ・ディーンの名と共に、映画史に燦然と輝く不朽の名作。

映画ファンでなくともジェームズ・ディーンを知らない者はいないだろうし、ジェームズ・ディーンといえば『エデンの東』だ(“絶対に『理由なき反抗』だ”というニコラス・レイ監督シンパも若干いるだろうが)。既に見ている人はもう一度、見たことがない人はこの機会にぜひ、としか言いようがない映画史に残る不朽の名作である。

この作品の鍵となる要素は3つ。まずは原作者のジョン・スタインベック。アメリカ現代文学を代表する小説家でノーベル賞受賞者。映画『二十日鼠と人間』や『怒りの葡萄』の原作者でもある。原作は、カリフォルニア州モントレー郡サリナス(スタインベックの生まれ故郷でもある)の農場を舞台に、2家族3世代の歴史を描いた大河小説で、題名はアダムとイブがエデンを追われた後に生まれたカインとアベルの兄弟が、嫉妬にかられてアベルを殺したカインがエデンの東の地に追放されたという旧約聖書の創世記の物語からとられている。原作は、聖書の解釈をめぐって展開する、非常にキリスト教色の強いもので、映画が題材にしたのは、トラスク家のアダムと2人の息子アーロンとカレブ(キャル)の物語を扱った小説の最後の部分である。

2つ目は監督のエリア・カザンだ。貧しいギリシャ移民の子としてニューヨークで育ち、イェール大学を経てアクターズ・スタジオの前身となる劇団グループ・シアターに入団、ブロードウェイの舞台で演出家として頭角を表す。1944年にハリウッドに進出し、『ブルックリン横丁』を監督。1947年の『紳士協定』と1954年の『波止場』で、2度アカデミー監督賞を受賞した。カザンというと、赤狩りの時代に仲間を売った裏切り者という汚名がその後の人生についてまわった。このことについては、立場の違いによって、いろいろな意見があるだろう(私にもあるが、ここには書かない)が、あの事件さえなければ、カザンはもっと多くの映画を監督できたろうし、もっと多くの賞を受賞したはずだと私は思う。映画『エデンの東』にはカザンの名演出の数々が見られるが、なんといっても最大の功労は、初主演のジェームズ・ディーンから一世一代の演技を引きだしたことだろう。また、横長のシネマスコープの画面を最大限に活用した、うっとりするほど美しい名場面も見逃せない(撮影は『サウンド・オブ・ミュージック』などの名撮影監督テッド・マッコード)。ちなみに、先日公開されたジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス監督の『ルビー・スパークス』で、タイトル・ロールのルビーを演じたゾーイ・カザンは孫娘にあたる。

そして、最大の鍵となるのが主演のジェームズ・ディーンである。1931年2月8日に生まれ、1955年9月30日に自動車事故によって24歳で夭折するまで、主演した映画は『エデンの東』、『理由なき反抗』『ジャイアンツ』のわずか3本。けれども、彼以上に強烈な輝きを放つ映画スターは、いまだに出ていない。『エデンの東』での優等生の兄アーロンに常に比べられ、父親の愛情と関心をどうにか自分に向けようとしてあがく問題児キャルの姿には、未熟で、性急で、一生懸命で、悲しいほど美しい青春のきらめきが詰まっていて、誰もがそこに自分の姿を見いだすはずだ。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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