映画の処方箋

Vol.055

『ロボコップ』

『ロボコップ』3部作が描く都市と人間の近未来

映画は時代を映す鏡である。ポール・ヴァーホーヴェンの『ロボコップ』が日本公開された1988年、時代はまだ昭和だった。おりしもバブル景気の真っ最中で、ソフトスーツを着たヤンエグ男とワンレン・ボディコン女が日本中を闊歩していた。株も不動産も天井知らずの右肩上がりで、投資は海外に向かい、ソニーによるコロンビア映画買収や、三菱地所によるロックフェラーセンター・ビル買収劇が起こって、アメリカから顰蹙を買った。『ダイ・ハード』でLAのナカトミ・ビルがテロリストに占拠され、現地法人のタカギ社長(ジェームズ繁田)があっさり殺されたりもした。

映画『ロボコップ』の舞台は、そんな時代を元にして想像された近未来のデトロイトである。かつてはモーターシティと呼ばれ、自動車工業地帯として発展したデトロイトだが、60年代から治安が悪化、映画の中(設定は2010年)では、事態はさらに悪化し、民間企業オムニ社に警察経営が任されている。
オムニ社の重役ディック・ジョーンズ(ロニー・コックス)は、警官組合との軋轢を回避するため、人間に代わる巨大警察ロボットED209を導入しようとするが、人工頭脳に問題があって失敗。代わって野心家ボブ・モートン(ホセ・ファラー)によるサイボーグ型ロボット警官の計画が実行に移される。おりしも、クラレンス・ボディッカー(カートウッド・スミス)率いる強盗団を追跡していた警官アレックス・マーフィ(ピーター・ウェラー)は一味の返り討ちに遭って惨殺される。モートンはマーフィの死体を使って機械警官“ロボコップ”を誕生させる。しかし、マーフィの同僚だったアン・ルイス(ナンシー・アレン)は、ロボコップの正体に気づいてしまう…。

ポール・ヴァーホーヴェンの『ロボコップ』の見所の1つは、強烈なアメリカ文明批判である。オランダ生まれのヴァーホーヴェンがアメリカに本格進出した1 作目でもあり、本人も当時アメリカに住んで感じたことを映画に盛り込んだと語っている。それがブラックな笑いを盛り込んだテレビのニュース番組やCMなどによく現れている。もう1つは、お家芸(?)ともいうべきエロス(ロッカールームで、なぜか女性警官が裸で着替えているとか)とヴァイオレンス(満載)である。マーフィがクラレンス一味に惨殺される描写など、グロテスクなまでに残酷で、毒気のある文明批判と共に、のちの怪作『スターシップ・トゥルーバーズ』に引き継がれていくテイストだ。もう1つ、忘れてならないのはフィル・ティペットとのコラボで、レイ・ハリーハウゼンを師と仰ぐティペットのストップモーション・アニメによる巨大ロボットED209の不気味でコミカルな動きは必見である。

アーヴィン・カーシュナーによる『ロボコップ2』では、時代はさらに進み、治安はさらに悪化。街ではヌーク(Nuke、核兵器や原発という意味もある)という合成麻薬が蔓延、麻薬王ケイン(トム・ヌーナン)が裏社会を牛耳っている。オムニ社は警察権のみならず、デトロイトをデルタシティとして再開発し、街ごと乗っ取ろうと画策する。映画は、前半では記憶を取り戻したロボコップの人間としてのアイデンティティをめぐる苦しみを、後半はケインの脳神経を使って新たに開発された凶悪なロボコップ2号との闘いを描いている。特撮は前作に続いてフィル・ティペットが担当。見所はもちろんクライマックスのロボコップ(着ぐるみ)対ロボコップ2号(ストップモーション・アニメ)の特撮対決だ。

フレッド・デッカーによる『ロボコップ3』は、麻薬や子供の凶悪化といった前作のダークな面を一蹴、正義のヒーローとしてロボコップの再生を図った。キャストも一新され、ロボコップ役はピーター・ウェラーからロバート・バークにバトンタッチ。時代はさらに進み、オムニ社によるデルタシティ計画で街を追い出された人々が地下に潜り、オムニ社の傭兵リハッブ隊と戦っている。象徴的なのは、オムニ社が日系企業カネミツ商会に買収されていることで、この辺り、いかにも1992年製である。見所はサイボーグ型ロボット“オオトモ”との闘いで、ロボコップは空を飛べるようになる。個人的に嬉しかったのはカネミツ商会会長役でマコが登場すること。アカデミー助演男優賞にノミネートされた『砲艦サンパブロ』から『SAYURI』まで、ハリウッド映画における日系人俳優の第一人者である。篠田正浩の『沈黙』や『梟の城』など、日本映画にも出演しているが、おしくも2006年に死去した。

さて、『ロボコップ』から10年、日本のバブルは弾け、9.11同時多発テロが起こり、アメリカに住宅バブルが起こって弾け、再び不況の時代を迎えた。バイオ技術による再生医療が進み、巨大複合企業による政治支配も明らかになった今、『ロボコップ』をリメイクするとしたら、そこに描かれるのはどんな近未来だろう?

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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