映画の処方箋

Vol.049

『デンジャラス・ビューティー』

サンドラ・ブロック――ハリウッド女優の定義を変えた美女

2010年はサンドラ・ブロックにとって記念すべき年だった。まず、『あなたは私の婿になる』、『ウルトラ I LOVE YOU !』(原題は『オール・アバウト・スティーヴ』)、『しあわせの隠れ場所』の3本の主演映画が大ヒットして、マネーメイキング・スターのトップに立ったこと。そして、『しあわせの隠れ場所』の演技でアカデミー賞主演女優賞に初ノミネートし、初受賞したことだ。が、それだけではない。アカデミー賞授賞式(3月7日)の前夜発表されたゴールデンラズベリー賞で、『ウルトラ I LOVE YOU !』の演技で最低主演女優賞を受賞してしまったのだ。同じ年に最高の演技賞(アカデミー賞)と最低の演技賞(ラジー賞)を同時に受賞したのは史上初の快挙(?)だった。


 

けれども、そこはさすがサンドラ。誰も出席したがらないラジー賞の授賞式に進んで出席し、『ウルトラ I LOVE YOU !』のDVDを配って、“ちゃんと見て審査して”と訴え、見事に名誉を挽回してしまった。ハリウッド女優といえば、美しく、ゴージャスで、近寄りがたい雲の上の人といったイメージなのに、サンドラからは底抜けに明るいオーラが発散されていて、親しみやすい、気さくな人柄がスクリーンのこちら側にも漂ってくる。


 

そんな彼女の魅力が詰まった映画が『デンジャラス・ビューティー』である。ストーリーはこんな風だ。“シチズン”と名乗る連続爆破魔が、テキサス州サン・アントニオで開かれるミス・アメリカ・コンテストに爆破予告をした。FBI捜査官のグレイシー(サンドラ・ブロック)は、他に適任者がいないという理由で、候補者の一人に化けて潜入することになる。問題は、がさつで男まさりな彼女が、他の候補者と遜色ないほど美しく変身させられるか。捜査の指揮をとることになった同僚のエリック(ベンジャミン・ブラット)は、コンテストの責任者で元ミス・アメリカのキャシー(キャンディス・バーゲン)から、ミスコンのプロ、ビクター(マイケル・ケイン)を紹介してもらい、グレイシーに磨きをかけることにする。特捜班を引き連れ、コンテスト会場に乗り込んだエリックは、ビクターの特訓で次第に美しく変身していくグレイシーに密かに心をときめかす。最初はミスコンをバカにしていたグレイシーも、他の候補者たちと仲良くなるにつれ、見方が変わってくる。ところが、コンテスト最終日の直前、“シチズン”が逮捕され、特捜班に引き上げ命令が下る。“シチズン”とは別にコンテストに恨みを持つ真犯人がいると気づいたグレイシーは、命令に反しても潜入捜査を続けようと決意し、エリックに応援を頼むのだが…。


 

『デンジャラス・ビューティー』のテーマを一言で表せば“変身”である。日本の少女漫画にもよくある、眼鏡をかけたブスの女の子が、眼鏡をとって髪をほどいたら突如として美人になったり、男の子扱いされていたお転婆娘が、きれいなドレスを着たら突如として可愛い女の子に変身したり、というあれである。


 

サンドラ・ブロックは、よく見ると顔立ちが整ったクールビューティなのだが、造作が少しずつ大ぶりなところ(特に鼻と顎)と、ぺちゃパイと骨太な体格で損をしているように思う。とはいえ、本人はそんなこと、ちっとも気にしていない(或いは、気にしていることをうまく隠している)し、誰よりも自分をよく知っていて、素顔の自分をさらけ出す勇気と頭の良さがある。


 

昔のハリウッド女優は、自分の欠点を隠すためにカメラのアングルまで指定した。『或る夜の出来事』でアカデミー賞主演女優賞を受賞したクローデット・コルベールが、右側から顔を映させなかったのは有名な話だし、カメラマンは女優の皺を隠すためにレンズにストッキングを被せて撮影した。スクリーンに映るこの世のものとは思われない美男美女は、そうやって作られてきたのだ。


 

サンドラ・ブロックは、そんなハリウッド伝説を一蹴してしまった。特に、自らプロデュースした作品の中の彼女は、嬉々として自分をカリカチュアし、自分で自分を笑ってみせる。『デンジャラス・ビューティー』のFBI捜査官グレイシーがそのいい例だ。マイケル・ケインの手でいかに美しく変身をとげようと、変わらず鼻を鳴らしながらガハハと笑い、ピンヒールを履いて転び、男を投げ飛ばす。けれども、よく見ると、映画の隅々に誰も傷つかないよう、細かな配慮がなされているのがわかるだろう。私はそこにプロデューサーとしての彼女の女性らしい気配りを感じるのだ。


ライター 斎藤敦子のプロフィール

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