映画の処方箋

Vol.028

『センター・オブ・ジ・アース』

地球の中にワンダーが詰まっている

春が深くなり、木々の緑が濃くなると、今すぐどこか手近な山に行き、木漏れ日の射す山道を歩きたくなる。うららかな青空の下、テーマパークで絶叫するのも楽しいだろう。エリック・ブレヴィグの『センター・オブ・ジ・アース』は、そんなアウトドア魂をほどよく満足させてくれるアドベンチャー映画である。

 原作はジュール・ヴェルヌの<地底旅行>。ヴェルヌは、イギリスのH・G・ウェルズと並び称されるSFの父で、ウェルズもヴェルヌも、産業革命で急速に近代化が進んでいく時代に生き、機械万能・科学万能の新しい未来への好奇心をかきたてるような作品を次々に発表し、当時のベストセラー作家となった。けれども、二人はテクノロジー万能社会の到来を手放しで礼賛するのではなく、古き良き文明や人間らしさが進歩に取り残されていく不安をも、きちんと作品に織り込んでいた。

 ヴェルヌの小説は無声映画時代から何度も映画化されていて、有名な作品には、ハリウッドがオールスターキャストで映画化した『80日間世界一周』や、ウォルト・ディズニーが実写映画化した『海底二万里』(東京ディズニーシーにアトラクションがある)などがある。<地底旅行>も『センター・オブ・ジ・アース』を含めて3度映画化されているし、ヴェルヌの原作ではないが、2003年のパニック映画『ザ・コア』も、特に最後の地核からの脱出のアイデアなどは、まさに<地底旅行>からのパクリだった。ウェルズの『宇宙戦争』をスピルバーグがリメイクしたように、ヴェルヌが想像したSFにも、今もなおリメイクしがいのあるアイデアが詰まっているのだ。

 主人公は、地質構造学者で大学教授のトレヴァー・アンダーソン(ブレンダン・フレイザー)。彼は、10年前に行方不明になった兄マックスから引き継いで地殻変動を研究しているが、講義が不人気で、研究室が物置にされる危機に瀕している。そんな折り、兄の息子ショーン(ジョシュ・ハッチャーソン)を預かることになり、渡された兄の遺品の<地底旅行>の中に謎のメモを発見、兄の足跡を追ってショーンと2人でアイスランドに出発する。そこで火山学者の娘で山岳ガイドのハンナ(アニタ・ブリエム)に出会い、彼女を案内人に雇って地震センサーを確かめに行く。ところが、山麓で激しい雷に遭遇し、飛び込んだ岩穴に閉じ込められ、出口を探すうちに次第に地底に引き込まれていく。こうして、3人の地底での大冒険が始まる、というのがストーリーである。

 ヴェルヌは、地底にオーロラのような電気現象で照らされた大空洞があって、そこでは絶滅したはずの古代生物が生きてる“ロストワールド”を想像した。直径1メートルの地球儀を作ると、世界最高峰エベレストの頂上から世界最深のマリアナ海溝の底までは1ミリの幅に収まるという。とすれば、残りの直径998ミリの間に、ヴェルヌが想像したような大空洞があっても不思議ではないだろう。映画『センター・オブ・ジ・アース』もまたヴェルヌの想像力を踏襲し、地下には広大な海のある大空洞があり、巨大なキノコの森があり、光る鳥が飛び回り、恐竜が襲いかかるワンダーランドを出現させている。しかも、そのプレゼンテーションの仕方がとても現代的なのだ。3人が地底に入っていくと、ストーリーはいかにして3人が地表に出るかの1本に絞られ、困難に遭遇しても迷うことなく、ラストに向かって一直線に進んでいく。シンプルでスピーディ。しかも、3D映画として製作されているため、画面の遠近がはっきりしていて、2Dで見ても映像がクリアだし、“飛び出す”演出が楽しい。本来は特撮のスーパーバイザーであるエリック・ブレヴィグが監督に抜擢された理由がよくわかる。

 ピラニアが巨大化したような魚が襲ってくるのをバットで撃退したり、強力な地場によって空中に浮かんだ鉄鉱石の飛び石をたどっていったり、“まっさかー”と思うワンダーな場面が次々登場するが、テーマパークのアトラクションのようで童心に返って楽しめる。1つ残念なのは、ブレンダン・フレイザーの服が破れるのは袖までで、自慢の肉体の露出がないこと。この辺り、子供と一緒に、安心して楽しめるファミリー映画たるゆえんである。

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ライター 斎藤敦子のプロフィール

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