知って得する!

吹替王国 ムービープラスでは、「もっと吹替が観たい!」「あの声優さんの声のバージョンが観たい!」という皆様の声にお応えすべく、声優にフィーチャーして映画をセレクト&一挙放送。

#9 声優:江原正士

2017年2月某日。今回収録した特別CMは、「トム・ハンクス『グリーンマイル』編」、「ビル・マーレイ『ヴィンセントが教えてくれたこと』編」、「江原正士登場編」の3バージョン。声がそっくりと言われているトム・ハンクスの悶絶演技(?)は、ご本人も楽しんで演じてくださいました。

地上波版では演技を変える?

── 「吹替王国」のオファーがあったとき、どんなお気持ちでしたか?

うれしい限りですね。ちょっと今、吹き替えが弱っているかなという感じなので、ぜひ盛り上げていただきたいなと思っています。

── おもしろCMの収録はいかがでしたか?

こういう遊びは面白いですよね。もっともっと遊んでいただいても結構でございますよ(笑)。『グリーンマイル』は複雑な作品ですが、ああいう風に明るく仕上げてもらえると、皆さんにも楽しんで観て頂けるんじゃないかと思ってうれしいです。

── 当時の『グリーンマイル』本編の収録の思い出をお聞かせください。

『グリーンマイル』を観たときはびっくりしましたね。『アポロ13』とも『インフェルノ』ともぜんぜん違う。トム・ハンクスは非常に集中力のある役者さんなんですが、このドラマは刑務所の話ですし余計に集中力がいりました。シーンの状況とか彼の気持ちを作って凝縮していかないと、あの画面にはじかれちゃうんですよね。オリジナルに負けないで、絶対に近いところまで持っていくんだ!っていう気持ちで頑張りました。チームも良かったですしね。ドラマはひとりではなく、チームで作るものですからね。出演メンバーの想いや演技的熱量がさらにドラマをあぶり出して、感動しました。

── 収録は皆さんで一斉に録られたんですか?

はい。『グリーンマイル』は、ソフト版とテレビ版と2つのバージョンを録音しています。僕は基本的に2回目を録るときは、前のバージョンを観ないようにしています。翻訳も新しいですし、キャスティングも違いますので、ゼロスタートでいつも挑んでいます。

── 同じトム・ハンクスでも、いろいろなキャラクターを演じ分けていらっしゃいます。

作品によって違いますね。『ロード・トゥ・パーディション』とかも感じが違いますし、『ターミナル』は陽気な外国人って感じだし、『インフェルノ』のラングドン教授なんかは「え~、トム・ハンクスが二枚目?」とかね。試行錯誤の連続です。ただ、録音日というタイムリミットがあるので、やるっきゃない、という感じです。完璧な状態で入ることなんてないですよね。

── 初めてトム・ハンクスを演じたときの彼の印象はいかがでしたか?

コメディのイメージもありますが、単なるコメディ俳優じゃない。心のパワーが強くて紳士だし、幅がある人だなと。根底にある人間の琴線に触れるところをしっかりと持ってる人だなと思いました。不思議な人ですよね。
初めて彼の声をやったのは『フォレスト・ガンプ/一期一会』です。特異な役でしたが大げさに演じず、サラっと軽めに作りました。ただ、ちょっと反応が遅いとか、相手に対して信頼感が強すぎるとか、そういうところは作りました。ソフト版の場合は、頭からずっと観て頂けるのでだんだん心情も伝わっていきやすいんですが、地上波版は間にCMが入るので、キャラクターをちょっと強めに出しました。

── そこまで考えて作っていらっしゃるんですね。

だいぶ前に本編の序盤で死ぬ役をやったことがあるんですが、「江原の(序盤で死ぬ役)は盛り上げてくれるからイイな」って言われたことがあります(笑)。次に何かが起こるような予感をさせるように死ぬとCM明けてからも観てもらえますからね。僕はその後、出てこないんですけど(笑)。僕らの世代は、ディレクターさんも含め、そういう意識でやっていました。

── 自分に近いと感じる俳優は?

もしかしたら、トム・ハンクスが自分に一番近いかもしれません。来日の際のはしゃぎっぷりとか、ちょっと余計なサービスをしちゃうところとか(笑)。

── 江原さんのトム・ハンクスは、彼が本当に日本語で話しているように見えます。

本当に!?うれしい~、うれしいなぁ(笑)。

── どうやってその境地まで持っていけるんでしょう?

何回も何回も練習するんです。そうすると「あれ?ここで口閉じてるんだ」とか、気付く瞬間がある。台本見ながらやってるから全部映像を観てるわけじゃないんですよね。練習を繰り返して映像を確認しながらやっていくと「あれ?こんな顔してるの?じゃあこの表現は違うじゃん」とかね。修正に修正を重ねて、作り上げていきます。

── 声優さんでも、声まで似せてくる人はなかなかいないと思うのですが。

声が似てるって言われるけど、今しゃべっている声は違いますよね?ある部分は似てるようではあります。だから、そこに追い込んでいければ、多少違和感ないところまでいけるのかなって感じはしますね。でもそう言っていただけるとうれしいです。今回も『インフェルノ』で劇場版をやったんですけど、劇場版って大画面だから口パクが分かりやすいので結構気を使うんですよ。でも、劇場で観ていた人に「いやあ、トム・ハンクスが日本語でしゃべってましたね」って言われたときは、単純にうれしかったですよ!良かった~って。それと同時に、素晴らしいダビングをしていただきどうもありがとうございましたって思いました。もちろん僕たちだけの力じゃないですから。テクノロジーがあってこその、僕らの仕事ですからね。ミキサーやエンジニアの方たちのセンスが入ってくるんです。増幅してくださる方々がいて、相互作業の上で成り立っている。スタッフさんがいて、初めて作品が皆さんのところに届くのであって、それを忘れていただきたくないんです。こうして特集を組んでいただくのはうれしいんですけど、僕はひとつのピースとして頑張りました、というのが事実です。もちろん、僕らは最初のデータをちゃんと作ります。データがちゃんとしていれば、後はどうにでも料理ができるじゃないですか。だから、最初のデータ作りをちゃんとやろう、というのが僕のポリシーです。そういう世界です。

── 『ヴィンセントが教えてくれたこと』のビル・マーレイは、また違った役どころですね。

この作品はビル・マーレイが演技派を意識しているという話もあって、日本語制作サイドからちょっと固めの芝居を要求されたんです。いつもの感じでやろうとしたら「江原さん、そこまでやらないでください」って言われたりして。僕がそれまでやっていたビル・マーレイのおとぼけオジさんとは、ちょっと違うニュアンスが出ているかもしれません。嫌なオヤジみたいなね。

── 『トリプルX』のヴィン・ディーゼルも、また違うキャラクターですが、演じてみていかがでしたか?

僕は入り込むと、何をやっていても自分がヴィン・ディーゼルになるんです。台本をいただいてから録音する日までは、僕はもうヴィン・ディーゼルなんです!「自分はこんなにタフガイなんだ」って、少し動きが緩慢になって、横柄な感じになる。ふとした瞬間に映画のワンシーンのポジショニングに入っているときがあるんです。ちょっと首をかしげたときに、「あ、これは『グリーンマイル』のトム・ハンクスだな」とかね(笑)。そういうアクションが日常生活に入ってくると、キテるかなっていう感じですね。自分の中にあるヴィン・ディーゼルの声は野太い系の“ドン”としたイメージなので、それにも近づけていきます。それと『トリプルX』の彼からは、ちょっとコミカルな感じも受けたので、少しそういう部分も入れつつ演じました。

「あいつはアドリブを入れる奴だ」って思われるようになっちゃって(笑)

── 『メン・イン・ブラック』のウィル・スミスは早口ですが、アドリブをたくさん入れましたか?

ウィル・スミスは若い頃ラッパーだったので、そういうノリがどこかに出ないかな、と考えました。だから多少早口にして、キレのある感じを出そうとして行き過ぎたところもあったかもしれません。黒人俳優は大きく口を開けるストレスポイントがあります。その口の動きに微妙に合わせるのが結構大変でした。
声優業界で僕がアドリブを入れるという噂が広がったのは、昔、収録で横にいた先輩から「江原、ここでこう言ってみな」と言われて本番で言っちゃったら、主役の先輩に怒られましてね(笑)。それ以来、「あいつはいい加減なアドリブを入れる奴だ」って思われるようになっちゃって(笑)。でも、僕はそんなひどいこと普段やらないんです!アドリブというか、ニュアンスを出して人物造形を明確にして臨場感を出すために、芝居作りをすることはあります。たとえば「君はどうしたいんだ?」を、「で、君はどうしたいんだ?」って、頭に息を入れたり、内容を変えずにセリフの主語と述語をひっくり返したり。ディレクターが戻せと言えば戻します。広川太一郎さんは、「止めてくれ」って言われてもやっちゃいますけどね(笑)。大御所ですから、OKでした。

── オリジナルのニュアンスを100%再現できないジレンマなどはないですか?

なんとも言えませんが、面白いと思うニュアンスを絶対に失ってはならないし、僕ら声優は与えられたセリフの中でやるしかないんですが、遊びの部分はアドリブを提案することもできるのでね。「こっちのほうが面白くないですか?」って提案して、ディレクターに「江原君、10年早い」って言われたこともあります。全部却下なんてこともありますし(笑)僕はよく空振りします(笑)。そう言われても僕はやり続けて、10年以上やっていると、そのディレクターさんも自由にやらせてくれたりするようになる。やり続けることが大事ですね。だから若手と仕事をするときは、「みんなアイデア出して」って言って、僕のセリフをいじってもらうときもありますよ。

── 今までのお仕事で、「100%思い通りにできた」ということはありますか?

舞台でありがちなんだけど、自分で満足したときは、大体ダメです(笑)。「俺は今日、いい声でしゃべった」なんて日は、最悪です。逆に汗たらしながら必死にやった日は「今日のお前のセリフ、キタよ」とか言われる。本人は必死に役を演じただけなんで、分からないんですけど、邪念を持たずにまっすぐやることが大切なようで、舞台も吹き替えも同じかも・・・。

── 演じることを生業とする業界に身を置こうと決めたきっかけは?

役者になりたくてなったわけじゃないんです。流れですね(笑)。若い頃、チャップリンが大好きで憧れていて、そっち方向へ行きました。ある日、ある映画監督の授業に参加したとき、女優を目指している若い女の子が、初めてソーダ水を見る女性を演じるシーンがありましたが、棒読みで。年配の監督がお手本でセリフを言ったら、弾けるような揺らめきが見えたんです!本当に見事でしたね。そのとき、「表現ってなんだろう?」と思って、芝居を勉強しなくちゃと思いました。そのときの経験が演技の道に入るきっかけかもしれませんね。
仲代達矢さんの舞台「リチャード三世」を観たときは、ちょうど学生の観覧日でギャアギャアうるさかったんですが、仲代さんが登場して子供たちの目をじっと見ながら長セリフを言ったら、サーっと会場が静まり返りました。そのとき僕は、役者の力をまざまざと見せつけられました。青年は感動しました!(笑)。そんなこんなの流れで、いつの間にか劇団渡り鳥になっちゃうんです。そして、劇団つながりで吹き替えの仕事をやるようになって、これは面白い仕事だなと思ってここまでやって参りました。

吹き替えはオリジナルを底上げできる。

── 吹き替えをやるようになったのは、何年前くらいですか?

劇団昴に入ってからは、相当本数をやっています。朝から晩までずっとスタジオに入っていました。そこで色んな役をやらせていただきましてね。若いのにおじいさん役ばかりだったときは「どうして俺はじいさん役ばかりなんだ!他に本当のおじいさんがいっぱいいるじゃないか!」って思ったり(笑)。ひとつの作品で6役全部おじいさんとか(笑)。ディレクターさんに「江原君、ぜんぶ同じじゃないか」って言われたりして。でも、そんなにバリエーションないじゃないですか(笑)。当時はいじめかな?と思ったこともありましたが、そのおかげで鍛えられましたし、たくさん引き出しを作っていただきました。根が真面目なので、悔しさもあって必死に取り組むんですよね。いま思うと、そういう場を与えていただいたのは幸せなことです。血反吐が出るくらい色んな役をやらされました。でも、本人としては根っから楽しんじゃうほうなので、苦しいとは思いながらも楽しんだのは事実です。

── 役者と声優は、どちらが自分の中で大きかったんでしょうか。

一緒なんです。映像と舞台の真ん中が吹き替えみたいな感じで。この世界、結構深いんですよね。オリジナルがあるんだけど、「失敗してるな」って思うとこちらで修正できるんですよね。「ここはもうちょっと立てたほうがいいんじゃない」と思ってやってみたり。色々といじることができるし、C級作品をB級作品に持っていくことはできる。できるっていうのはちょっと不遜だけど、それを目指してやってきました。野沢那智さんも「俺はB級作品がやりたいんだ。俺は絶対に面白くしてみせるんだ」っておっしゃってました。すごいパワーを感じました。僕らの力で面白くするぞ!っていう気概ですよね。

── アニメーションと吹き替えでは違いはありますか?

若干違うと思いますが、僕らみたいな洋画系の声優を使うときは、アニメ系のスキっとした芝居じゃないもの、いわば“雑味成分”の多い芝居を求められることが多いですね。洋画系でやるっていうことは、撃たれたときのリアクションは「どわあああああああああ!」っていう表現じゃないってことですよね。

── 声優の世界は、昔と今では違いますか?

一番大きいのはテクノロジーの進化です。今は、音も波形で見えるようになっちゃったので、口とズレているのが分かるようになった。おかげで、口パクにセリフが合うかどうかが昔以上に求められるようになってきたというのは事実です。でも、昔は口パクよりも芝居を求められたので、そういう意味では難しい部分があったのかもしれません。僕の大先輩の時代は、14インチ、大きくても28インチくらいのテレビです。だから多少口がズレていたとしても分からないんですよ。今は40インチとか50インチとかの大画面ですから、口が見えちゃうんですよね。ましてや劇場で公開するとなるとなおさらです。それが大前提になってしまったことによって、そこをクリアしつつ芝居を作っていくという難しさは増えたと思うんです。

── 江原さんが洋画吹き替えで大切にしていることは?

芝居心です。やっぱり音が合っているということよりも、作品のニュアンスをきちんと伝えるということが一番大事じゃないかと思います。こう言うと優等生の答えに聞こえちゃいますけど、それを失っちゃったらダメですよね。あるいは、オリジナルが劣っているなら、こちら側の作業で底上げする。それが吹き替え洋画を盛り上げるパワーかなと、僕は思っています。

── 声優を目指す方へ、何かアドバイスはありますか?

音楽でも絵画でもなんでも興味を持って、色んな表現に触れていただきたいですね。美術館やライブに通うとかでもいいですし、好き嫌いなくとりあえず触れてみてから自分の趣味に入っていくといいと思います。あとは、食べることも大事です。

── 江原さんにとって声優とは?

チャレンジャーであり、冒険者。異国の文化に触れながら、異国の役者の演技を見ることできて、様々な発見のある日々が送れる役者修行、ですか。

── 最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。

ムービープラスをご覧の皆様、本当にありがとうございます。字幕も面白いですが全部表現しきれていないので、日本語で観ることでより身近に感じることや発見もたくさんあると思います。ぜひ普段は字幕版で観ている方も一度吹き替え版で観ていただき、自分たちの言語で役者たちがしゃべっている面白さを感じてください。

作品詳細
4月30日(日)16:45~ 3作品連続放送

『ヴィンセントが教えてくれたこと【日本語吹替版】』
ビル・マーレイ

4月30日 16:45放送

ビル・マーレイ主演のハートウォーミング・コメディ。偏屈な不良オヤジとイジメられっ子の少年が、奇妙な絆で結ばれてゆく様を描く。

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『トリプルX【地上波吹替版】』
ヴィン・ディーゼル

4月30日 18:45放送

国家エージェントとなったストリート・アウトローの活躍を描くアクション。主演・製作総指揮は「ワイルド・スピード」シリーズのヴィン・ディーゼル。

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『グリーンマイル【日本語吹替版】』
トム・ハンクス

4月30日 21:00放送

スティーヴン・キングの同名小説をトム・ハンクス主演で映画化。奇跡の力を持つ黒人死刑囚と看守の交流を描くヒューマン・ドラマ。

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プロフィール

江原正士(えばら・まさし)

5月4日生まれ。神奈川県出身。
劇団活動を経て、俳優・声優・ナレーターとして活躍。
トム・ハンクス、ビル・マーレイ、ヴィン・ディーゼルなどハリウッドスターの声を多く担当するほか、アニメーション『NARUTO』シリーズ(マイト・ガイ)、NHK人形劇『新三銃士』(アラミス)、ゲーム『FINAL FATASY13』(サッズ・カッツロイ)など幅広い演技に定評がある。