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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『サンシャイン・クリーニング』2011/03/18 UP

不幸な人生をクリーニングするために。

 “幸せな家庭はどこも似ているが、不幸な家庭はそれぞれの仕方で不幸である”というのはロシアの文豪トルストイの言葉である。『サンシャイン・クリーニング』を見ていると、主人公ローズの家こそ、まさに“それぞれの仕方で不幸な”家庭だと思えてくる。

 何より、主人公のローズ(エイミー・アダムス)の不幸度がハンパじゃない。かつては学園のアイドルだったが、30代を迎えた今はしがない出張清掃員。刑事になった元彼マック(スティーヴ・ザーン)との腐れ縁をいまだに引きずる、絵に描いたような“だめんず”である。そのうえ、問題ばかり起こして放校寸前の息子オスカー(ジェイソン・スペヴァック)と、自立できない妹ノラ(エミリー・ブラント)に、怪しげな品物を売り歩いては借金を増やす父親(アラン・アーキン)がいて、彼らの面倒もみなければならない。そんな彼女が、犯罪現場の清掃という特殊な業種に飛び込んでいき、仕事を通して人生をリセットする、というのが、映画『サンシャイン・クリーニング』のあらすじである。

 舞台はニューメキシコ州アルバカーキ。アメリカ西部にある人口50万足らずの典型的な地方都市だ。一見、何の変哲もない平和そうな町でも、一歩踏み込んでみると、現場清掃の需要が沢山あることに驚く。殺人、自殺、自然死、不幸の顔は様々で、なるほど今は幸福というよりは不幸が基調の時代なのだなと思わせる。そんな時代の空気感を映画の中に取り込んだところが、この作品が普通の娯楽映画とはひと味違う点だ。

 “サンシャイン”つながりで、同じような負け組家族の奮闘を描いた『リトル・ミス・サンシャイン』という作品があるが、あちらが家族が力を合わせて不幸を跳ね返す物語としたら、こちらは不幸を受け入れることで家族を再生する物語。あちらは動、こちらは静で、映画の味わいに大きな差がある。特にストーリーが進むにつれ、姉妹の不幸の源が母親の自殺にあり、姉妹の心にトラウマとなって残っていることがわかってくる。この母親のエピソードが映画の暗さを増していて、好き嫌いが別れるところだろう。ただ、自殺の裏に何があったかについて映画は深く立ち入らず、姉妹のだめな父親をユーモラスに描くことで、家族の問題を間接的に浮き上がらせようとしている。そういう演出の慎み深さが私はかなり好きである。

 監督のクリスティン・ジェフズはニュージーランド出身で、2003年に詩人で精神を病んで自殺したシルヴィア・プラスの生涯を描いた『シルヴィア』を撮っている。『シルヴィア』に比べれば、『サンシャイン・クリーニング』はずっと前向きで明るい映画だが、女性の性格描写があまりに的確で、特にローズのイタい性格(よせばいいのにクラスメートの“ベビーシャワー”に出かけて行ってドツボにはまるなど)は、同じような傾向がある人は、見ていて気分が悪くなるかもしれない。

 ローズ役には、『魔法にかけられて』で、おとぎの国から現実の世界に追放されたお姫様を演じたエイミー・アダムズ。ディズニー映画で主演をはった後で、よくもまあ、こんな負け犬役を引き受けたもの。彼女の勇気に脱帽する。妹ノラ役には、『プラダを来た悪魔』でアン・ハサウェイをいびっていたエミリー・ブラント。愛すべきだめ親父には名優アラン・アーキン。そして、金物屋の店員ウィンストンを演じたクリフトン・コリンズ・Jrはメキシコ系芸能一家の出身で、カメレオン俳優として知られる人。強面で無口でぶっきらぼう。だが、慣れない仕事を始めようとするローズに、黙ってマニュアル本を差し出してくれるウィンストンは、“だめんず”に取り憑かれたローズの前に現れた、初めての大人の男といっていい。彼との関係が恋愛がらみに発展していかないのも、この映画の慎み深いところで、私はとても気に入っている。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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