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『死霊館 エンフィールド事件』2018/08/24 UP 放送日時

夏の夜のホラー映画は、決して一人では見ないこと

 『死霊館 エンフィールド事件』は、『ソウ』シリーズで知られるホラー映画の雄ジェームズ・ワンが、実在の超常現象研究家ウォーレン夫妻を主人公にした『死霊館』の続編で、イギリスで実際にあった、史上最も有名なポルターガイスト現象を忠実に再現した、実録ホラー映画である。

 1976年、ニューヨーク州アミティヴィルに住むラッツ一家に起こった殺人事件(『悪魔の棲む家』として映画化)の後、事件を調査したロレイン(ヴェラ・ファーミガ)とエド(パトリック・ウィルソン)のウォーレン夫妻は、真相を広めようとしてテレビ出演を引き受けたものの、かえってマスコミや学者の餌食になり、一切の活動を休止する。翌77年、ロンドン北部、エセックス州エンフィールド。夫と離婚したシングルマザーのペギー・ホジソン(フランシス・オコナー)と4人の子供達が住んでいた公営住宅で、次女のジャネットが友達と一緒に作ったウィジャボード(字幕では霊応盤、こっくりさんのこと)を家に持ち帰り、姉マーガレットと試した夜から、次々に奇怪な現象が起こり始める。この家の先住者の霊を呼び覚ましてしまったのだ。隣人が警察に通報したため、その報告書を見たテレビ局が、心霊現象研究協会(SPR)のモーリス・グロス(サイモン・マクバーニー)を連れて取材に来る。グロスは本物の心霊現象だと確信するが、同じSPRのアニタ・グレゴリー(フランカ・ポテンテ)は懐疑的だ。しかし、番組が放送されるや、ホジソン家のポルターガイスト現象は大騒動に発展してしまう。その頃、アメリカのウォーレン夫妻のもとに神父が訪れ、エンフィールドの怪現象の真偽を確かめて欲しいと依頼する。エドの死を幻視したばかりのロレインは、不吉なことが起こるのではないかと気乗りがしないが、悪魔から逃げずに闘おうというエドに促され、3日間だけの約束でロンドンに向かうのだが…。

 エンフィールド事件とは、77年8月31日から約2年に渡ってエンフィールドのホジソン家で起こったポルターガイスト現象のことを言う。当初からマスコミが報道したこと、心霊現象研究協会が調査に入り、詳細な記録を残したことで有名になった。本作は、事件をかなり忠実に再現しており、登場人物もほぼ実在、モーリス・グロスとアニタ・グレゴリーも心霊現象研究協会に属する実在の人物だ。ちなみに、心霊現象研究協会とは1882年にケンブリッジ大学に設立された超常現象を研究する団体で、過去にルイス・キャロルやアーサー・コナン・ドイルなどが会員だったこともあり、現在も活動中である。

 主演のヴェラ・ファーミガは73年ニュージャージー州生まれ。96年にブロードウェイで初舞台を踏み、テレビや映画で脇役として活躍。『マイレージ、マイライフ』でジョージ・クルーニーの相手役を演じてアカデミー助演女優賞にノミネートされた。彼女の繊細で、たおやかな雰囲気と大きな目はホラー映画にぴったりで、ジャウム・コレット=セラの『エスター』、『悪霊館』の霊能者ロレイン、主演と製作を務めたTVシリーズ<ベイツ・モーテル>などのホラー・サスペンス映画で大活躍中。

 パトリック・ウィルソンは73年ヴァージニア州生まれ。カーネギーメロン大学で演劇を学び、以後、舞台を中心に活躍する実力派で、ミュージカル俳優としても知られる。ジェームズ・ワンとは相性がよく、「死霊館」シリーズ2作と「インシディアス」シリーズ2作で主演している。

 監督のジェームズ・ワンは77年マレーシア生まれ。2000年に長編デビュー作『Stygian(地獄の川)』(原題)がメルボルン・アンダーグラウンド映画祭で最優秀ゲリラ映画賞を受賞。友人リー・ワネルと共同で書き始めた脚本を、04年に低予算映画『ソウ』として完成。これが公開されるや、世界的な大ヒットとなり、17年の『ジグソウ:ソウ・レガシー』までシリーズ7本が作られた。他に『インシディアス』、霊能力者ウォーレン夫妻を主人公にした『死霊館』、死霊館の呪いの人形をスピンオフした『アナベル』などの恐怖シリーズを次々に生み出している。

 ワンはホラー映画のスペシャリストで、観客の恐怖のツボをよく分かって演出している。本作も、特撮に頼ることなく、怪奇現象を手作りし(ゾーエトロープから抜け出す“ヘソ曲がり男”の怪人も、CGではなく、本当にああいうヒョロ長い体型の俳優が演じている)。この手作りの生な感じが、かえって怖さを増している。そして、予兆から怪現象が起こるまでの長い間。何かが起こりそうで起こらない、宙ぶらりんの時間が一番怖いことをよく知っているのだ。特に本作は、ホラー映画としては異例の長尺なので、この恐怖の間がたっぷり味わえる。

 『悪霊館』も怖かったが、『死霊館 エンフィールド事件』はずっと怖い。はっきり言って、夜中に一人で見るのはお薦めできない。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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