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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『荒鷲の要塞』2018/08/10 UP 放送日時

どんでん返しに次ぐどんでん返し、驚きを楽しむ戦争スパイアクション

 夏になると戦争映画が見たくなるのは、日本の終戦が夏真っ盛りの8月15日だったように、ヨーロッパも、44年6月6日のDデイ(ノルマンディー上陸作戦)から8月25日のパリ解放に至る“戦争の終わりの始まり”が夏の出来事だったからかもしれない。今回取り上げる『荒鷲の要塞』は、そのDデイの秘密を知る将軍をドイツ軍から奪還するというのがマクガフィンになった、凝りに凝った戦争スパイアクションだ。

 44年初頭、欧州侵攻作戦の鍵を握る米軍のカーナビー将軍の乗った飛行機が撃墜され、ヴェルフェンの急峻な崖の上に建てられたシュロス・アドラー(鷲の城)に連行された。将軍が口を割る前に救出しなければ、侵攻作戦が中止になる。英軍のスミス少佐(リチャード・バートン)率いる特殊部隊5名と米軍レンジャー部隊のシェイファー中尉(クリント・イーストウッド)は、深夜、落下傘で雪原に降り立つ。ところが、着く早々、通信担当の隊員が死んでいた。死体を調べると、首に絞められた痕がある。いったい誰に殺されたのか? 一方、少佐達が落下傘降下した後、同じ飛行機から密かにもう一人が降下していた。それが、3年前から少佐とコンビで作戦に従事していた女性工作員メリー(メアリー・ユーア)だった。翌日、ドイツ軍に変装した6名が町に潜入し、将軍の情報を集めようとする。少佐は、酒場のウェイトレス、ハイジ(イングリッド・ピット)を呼び出し、マリアを家政婦に化けさせ、城に連れていくよう指示する。実はハイジも女性工作員だった。つまり、将軍の墜落事故から、すべては周到に計画された作戦だったのだ。いったいどうやって侵入不可能な城に侵入し、無事、将軍を救出できるのだろうか? そして作戦の真の目的は何か?

 脚本のアリステア・マクリーンは、とにかく、どんでん返しに次ぐどんでん返しで観客を煙に巻いてやろうと意図しているので、ストーリーは意味がない。あまりにも行き着く先が見えないので、見ている途中で不安になるくらいだが、“意外な展開”の意外さを楽しむのがこの映画の見どころである。

 主演のリチャード・バートンは25年ウェールズ生まれ。戦後のイギリスを代表する名優で、アカデミー賞に7回ノミネートされた。が未受賞のまま58歳の若さで亡くなった(この最多未受賞ノミネートの記録は、のちにピーター・オトゥールが更新する)。バートンといえば、世紀の美女エリザベス・テイラーとの2度の結婚にまつわるゴシップが有名だ。二人はハリウッド最盛期を代表する華麗なるカップルだった。しかし、酒豪(=アルコール中毒)のうえにヘビースモーカーで、そのため寿命を縮めた。最後の映画出演はマイケル・ラドフォード監督の『1984』だが、その後に出演が決まっていた『ワイルド・ギースII』は、急遽エドワード・フォックスを“弟”役に立て、故バートンに映画を捧げた。

 メアリー・ユーアとイングリッド・ピットもまた波瀾万丈の人生を歩んだ。メアリー・ユーアは33年グラスゴー生まれ。55年『ナイルを襲う嵐』で映画デビューし、英国演劇界きっての美人女優として活躍した。私生活では、『怒りを込めて振り返れ』の原作者ジョン・オズボーン、俳優ロバート・ショウとの2度の結婚歴があるが、両人とも順風満帆な関係ではなかった。71年『恐怖の影』の出演を最後に舞台に復帰したが、75年、舞台初日の夜、飲酒のうえ睡眠薬を飲み過ぎて急死した。42歳の若さだった。

 イングリッド・ピットは37年ポーランド生まれ。戦争中に家族と共に強制収容所に送られたが生還。50年代にアメリカ人と結婚し、渡米したものの、離婚後ヨーロッパに戻って、ブレヒトが創設したベルリナー・アンサンブルの一員として舞台に立った。65年『ドクトル・ジバゴ』で映画デビュー。美貌と東欧訛りを買われて、70年代にハマー・フィルム製作のホラー映画で女ヴァンパイア役を演じて有名になった。“ゴシック・ホラーの女王”と呼ばれ、ファンクラブも出来るほどだったが、10年、73歳の誕生日を祝った2日後に心臓発作で亡くなった。

 この映画のロケ地は、オーストリアのザルツブルグの南40キロにあるヴェルフェンという町。城はシュロス・ホーエンヴェルフェンという実在の名所で、有料のケーブルカー(レールの上を走る)で行くことができる。映画に出てくるロープウェイの場面は、実物大のロープウェイを使ったセット撮影とミニチュア撮影の合成で、当時のハリウッド職人芸の巧みさがよく出ている。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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