知って得する!

映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
あなたに効くエピソードや解説を処方します!
用法用量を守って正しくお使いください。

243
『ミッドナイト・ラン【地上波吹替追録版】』2018/06/29 UP 放送日時

幻の名吹替え版で楽しむバディ・ムービーの傑作

 『ミッドナイト・ラン』は、保釈金ローン会社に雇われた賞金稼ぎが、マフィアの資金を盗んで追われる公認会計士を連れて、ニューヨークからロサンゼルスまでアメリカを横断するロードムービー。設定はアクション映画だが、強面の元刑事と心の優しい会計士が反目しながら次第に打ち解けていく、二人の漫才のような掛け合いが楽しいバディ・ムービーの傑作だ。今回はDVD未収録で、名吹替えと言われる92年テレビ朝日日曜洋画劇場初放映版に、ムービープラスが新たにカットされた15分を追加収録した、待望の本編ノーカット版で放映。

 ジャック・ウォルシュ(ロバート・デ・ニーロ 声:池田勝)は、保釈金ローン会社の社長エディ(ジョー・パントリアーノ)との契約で、逃亡した被告人を公判までに連れ戻し、その賞金稼ぎで暮らしているシカゴの元刑事。ジョナサン・マデューカス(チャールズ・グローディン 声:羽佐間道夫)は、ラスベガスのマフィア、ジミー・セラノ(デニス・ファリーナ)の金1500万ドルを横領し、慈善事業に寄付した心優しい会計士。だが、横領罪で逮捕され、エディから借りた金で保釈された後、姿をくらましていた。マデューカスを捜しだし、5日以内にロサンゼルスに連れていく仕事を破格の賞金で引き受けたウォルシュだが、FBIのモーズリ捜査官(ヤフェット・コットー)が現れ、セラノ逮捕のためにマデューカスを引き渡すよう要請、あっさり断る。元刑事のつてで、逮捕記録からニューヨークでまんまと逮捕に成功したウォルシュだが、飛行機恐怖症で機内で暴れ出したマデューカスのおかげで飛行機を降ろされてしまう。こうしてウォルシュとマデューカスは、FBI、マフィアの殺し屋、賞金稼ぎのライバルに追われつつ、鉄道、バス、パトカーを乗り継いで、ロサンゼルスに向かうはめになる…。

 監督のマーティン・ブレストは51年ニューヨーク生まれ。彼を有名にしたのは、何といってもエディ・マーフィ主演『ビバリーヒルズ・コップ』の大ヒット。スタンダップ・コメディアンだったマーフィを一枚看板で稼げる大スターにしたのがブレストだ。それに続くこの『ミッドナイト・ラン』と、アカデミー賞に4部門ノミネートし、アル・パチーノが主演男優賞を受賞した次作『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』までがブレストにとっての最盛期。もともと寡作だったが、当時婚約中だったベン・アフレックとジェニファー・ロペスを主演にしたロマンチックコメディ『ジーリ』が製作中から大混乱で、紆余曲折を経て公開された映画も大不評で、その後、今にいたるまで新作がない。

 『ミッドナイト・ラン』は、ロバート・デ・ニーロがマーティン・スコセッシの『レイジング・ブル』でアカデミー主演男優賞を獲り、ブライアン・デ・パルマの『アンタッチャブル』でアル・カポネを毒々しく演じた直後の主演作。こんな肩の力を抜いた、楽しいデ・ニーロの演技がフレッシュで、それも評判になった。対するチャールズ・グローディンは35年ピッツバーグ生まれでデ・ニーロより8歳年上。リー・ストラスバーグに師事して演技を学んだ俳優で、脚本家・演出家でもある。コメディアンとしての才能が認められ、大きくステップアップするきっかけになったのが『ミッドナイト・ラン』のマデューカス役だった。他に、テレビのトークショー番組のホストや、CBSのニュース番組「60ミニッツII」のコメンテーターでも知られる才人である。

 脇を芸達者な個性派俳優で固めたのも本作の見どころ。強面のFBI捜査官モーズリを演じたヤフェット・コットーは、『007/死ぬのは奴らだ』で悪役Dr.カナンガを演じて注目された人で、映画ファン的には『エイリアン』の乗組員パーカー役の方が有名かもしれない。マフィアのボスを演じたデニス・ファリーナは数々の映画でギャングを演じた人だが、実はシカゴの元警官出身。マイケル・マンの『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』でテクニカル・アドバイザーに雇われ、ついでに小さな役で出演したのがきっかけで俳優に転身した(残念ながら13年に69歳で亡くなった)。マービン役のジョン・アシュトンは、もちろん『ビバリーヒルズ・コップ』のタガート刑事で人気者になった人。今も舞台を中心に、TV・映画で活躍中だ。

 『ミッドナイト・ラン』の楽しさは、彼ら芸達者たちの演技とマーティン・ブレストの演出が醸し出す、“丁々発止とした掛け合い”と“間”の絶妙なバランスにある。こういう作品は、やはり芸達者な声優による“声の競演”で見るのが一番だ。池田勝・羽佐間道夫コンビによる貴重なノーカット版『ミッドナイト・ラン【地上波吹替追録版】』放映をお見逃しなく。
 
 

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

メルマガ限定コラムもチェック!

ここでしか読めないコラムを毎月お届け。

最新のコラム

コラム一覧

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年