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アカデミー賞2018ノミネート2018/01/26 UP

今年のオスカーの行方は?

 1月23日、第90回アカデミー賞のノミネート作品が発表になった。前哨戦のゴールデングローブ賞でもそうだったが、昨年のヴェネツィア映画祭金獅子賞のギレルモ・デル・トロ監督『シェイプ・オブ・ウォーター』が本命、ヴェネツィアで脚本賞、トロント映画祭で観客賞のマーティン・マクドナー監督『スリー・ビルボード』が対抗という様相だ。

 ぶっちぎりで最多ノミネートを獲得した『シェイプ・オブ・ウォーター』は、60年代の冷戦時代に、アメリカ政府の極秘研究所で清掃係として働くイライザ(サリー・ホーキンス)と研究所に持ち込まれた奇妙な生き物とのラブストーリー。『ヘルボーイ』や『パシフィック・リム』といったファンタ系作品で知られるデル・トロ監督らしいファンタジック・ロマンス映画で、作品、監督、主演女優、助演男優、助演女優、脚本など、まんべんなく13部門のノミネートを獲得した。

 次いでノミネート数の多かったのはクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』で、作品、監督、美術、編集など8部門。ただし、公開が終わってから長い作品は、勢いという意味では不利かもしれない。

 『シェイプ・オブ・ウォーター』の対抗馬『スリー・ビルボード』は、ミズーリ州の田舎町で起きたレイプ殺人事件の被害者の母親(フランシス・マクドーマンド)が、警察の捜査に不満で、警察署長(ウディ・ハレルソン)に異議申し立てをする看板を立てたことから起こる波紋を描いたもの。善悪で割り切れない人間の複雑さをテーマにし、勧善懲悪でも、ハッピーエンドでもない、アメリカ映画らしからぬ映画である。作品、主演女優、助演男優(ウディ・ハレルソンとサム・ロックウェル)、脚本、編集、作曲にノミネートしたが、なぜかイギリス人のマーティン・マクドナーが監督賞ノミネートを逸した。

 ダークホースはポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』で、作品、監督、主演男優、助演女優(レスリー・マンヴィル)、衣装デザイン、作曲の6部門にノミネート。50年代のロンドンを舞台に、服飾デザイナー(ダニエル・デイ=ルイス)の厳格に統制された毎日が、彼のミューズとなるモデル(ヴィッキー・クリープス)との出会いでかき乱されるというストーリーで、主要4賞(作品、監督、主演男女)のうちの3賞にノミネートを果たした。

 では、賞の行方を占ってみよう。私が思う今年の鉄板は、『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンドと、サム・ロックウェル(助演男優)、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』で特殊メイクを駆使してイギリス首相ウィンストン・チャーチルになりきってみせたヴェテラン俳優ゲイリー・オールドマンの3人だ。作品賞は『スリー・ビルボード』か『シェイプ・オブ・ウォーター』、監督賞はギレルモ・デル・トロかクリストファー・ノーランのどちらか。賞の女神は勢いのある映画の方へ向くだろう。ちなみに、ゲイリー・オールドマンの特殊メイクを担当し、メイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされた辻一弘の初受賞もかなり固いと思う。

 今年の傾向は、数年前からしばしば問題になった白人至上主義からの脱皮を目指したアカデミー協会の対処がかなり効果をあげたことだ。『ゲット・アウト』の監督ジョーダン・ピールと主演男優ダニエル・カルーヤ、『ローマン・J・イスラエル・エスカイヤ(原題)』の主演男優デンゼル・ワシントン、『シェイプ・オブ・ウォーター』の助演女優オクタヴィア・スペンサー、『マッドバウンド 哀しき友情』の助演女優メアリー・J・ブライジの5人の黒人が主要部門に並んだことで“白いアカデミー賞”のイメージがかなり薄れたし、『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロはメキシコ人、『レディ・バード』で監督賞に初ノミネートしたグレタ・ガーウィグは女性で、多様性への配慮もある。昨年、下馬評のトップだった『ラ・ラ・ランド』を抑えて『ムーンライト』が作品賞を制したような大逆転は今年は起こらず、『シェイプ・オブ・ウォーター』と『スリー・ビルボード』が仲良く賞を分け合うだろう、というのが私の予想である。

 私が密かに期待しているのは、なぜかいまだに受賞経験のない名匠ロジャー・ディーキンス(『ブレードランナー2049』)の撮影賞初受賞と、アニエス・ヴァルダ&JR共同監督の『フェイシズ・プレイシズ(原題)』の長編ドキュメンタリー賞受賞であるが、さて。結果は現地時間3月4日夜、ハリウッドのドルビーシアターで。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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