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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『マイ・インターン』2017/12/27 UP 放送日時

ジェネレーション・ギャップが生み出す親和力

 ナンシー・マイヤーズの『マイ・インターン』は、ロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイ共演によるハートフル・コメディ。アメリカでも日本でも思いがけないスマッシュヒットとなった。

 引退生活を送っているベン(ロバート・デ・ニーロ)は、3年前に妻に先立たれて以来、誰もいない家で一人暮らしの寂しさにうんざり。70歳ながら、心も体も健康そのもの、好奇心いっぱいの彼は、スーパーの掲示板でシニア・インターン募集のチラシを目にする。その会社は女社長のジュールス(アン・ハサウェイ)が立ち上げた新興のファッション通販サイトで、社員は若者ばかり。何もかも自分でやらなければ気が済まないジュールスは朝から晩まで仕事で手一杯。そんなジュールスの直属の部下として配属されたベンだが、シニアに偏見のあるジュールスから、なかなか仕事を任せてもらえない。積極的なベンは自分から雑用を買って出たり、若手の相談にのったりするうちに、社内の人気者に。あるとき、飲酒を目撃した運転手の代わりにジュールスを自宅に送っていったベンは、仕事をやめて主夫役に回った夫のマット(アンダーズ・ホーム)や一人娘のペイジ(ジョジョ・クシュナー)を知り、ジュールスの家庭の事情も分かってくる。ジュールスもベンの有能さと暖かな人柄に気づき、次第に打ち解けていくが、ジュールスは急成長した会社の常として、経営を外部のCEOに任せてはどうかという提案に揺れていた…。

 監督は、プレイボーイのジャック・ニコルソンが、恋人の母親ダイアン・キートンと大人の恋に落ちる『恋愛適齢期』、イギリスの田舎に住むケイト・ウィンスレットとロサンゼルスで予告編製作会社を経営するキャメロン・ディアスがクリスマス休暇の間、お互いの家を交換するラヴコメディ『ホリデイ』で知られるナンシー・マイヤーズ。脚本家出身だけあって、ストーリーの細部までよく目が行き届いている。ジェネレーション・ギャップを、台詞だけでなく、古い世代をハンカチやヴィンテージの鞄、若者世代をスマホやSNSといった小物使いで表現するところに説得力がある。悪漢も出てこないし、ラヴストーリーでもない(ロバート・デ・ニーロとレネ・ルッソの大人のお付き合いはあるにしても)、いわば“普通”のコメディ映画を、ここまで心地よく、楽しく描いていく手腕はさすがだ。

 主演のロバート・デ・ニーロは1943年8月17日ニューヨーク生まれ。言うまでもない、アメリカを代表する名優で、この時は70歳という役の設定より少し年上の73歳だった。対するアン・ハサウェイは1982年11月12日ニューヨーク生まれの31歳。幼い頃から女優を志し、十代でテレビ・シリーズ<ゲット・リアル>の主役に抜擢され、すぐ『プリティ・プリンセス』で映画デビュー。その後、順調にキャリアを伸ばしてきた優等生だ。アカデミー賞主演女優賞の初ノミネートした『レイチェルの結婚』がヴェネツィア映画祭に出品されたとき、監督の故ジョナサン・デミが努力家の彼女のことをとても誉めていたことを覚えている。そして『レ・ミゼラブル』で念願の初アカデミー賞(助演女優賞)を手にしたのはご存じの通り。主演女優賞を獲る日は近いだろう。

 アン・ハサウェイの名を決定的にしたのは、メリル・ストリープ演じる鬼編集長のアシスタントを演じた『プラダを着た悪魔』だ。今回の『マイ・インターン』では立場が逆転、今度はアシスタント(インターン)を使う側の役に出世して、ちょうど対になっているのが面白い。ただし、アシスタントでも社長でも、悩みの多い役どころなのは共通だ。

 会社でも隣近所でも、世代の違う相手と付き合うのは難しいもの。確かに人生経験豊かで気遣いもバッチリなシニア、素直な若者たちなんて、実生活ではありえない。理想である。でも、映画だから理想を描いていいのだ。それが面白ければ。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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