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『エクソダス:神と王』2017/12/15 UP 放送日時

クリスマスには聖書にちなんだスペクタクルを

 『エクソダス:神と王』は、旧約聖書の<出エジプト記>を元に、名匠リドリー・スコットが監督した歴史スペクタクル映画だ。

 古代エジプト。時のファラオは、飢饉で故郷を捨てて逃げてきたイスラエル人を受け入れるが、時代が下り、イスラエル人が増え、次第に力を持つようになると、エジプト人から疎まれるようになる。ついにファラオはエジプトで生まれたイスラエルの男児をすべてナイル川に捨てるように命じるが、一人だけ、水浴びに来た王女に救われ、モーセと名付けられて育てられることになる。

 セティ王(ジョン・タトゥーロ)の宮廷で、王子ラムセス(ジョエル・エドガートン)と兄弟同様に仲良く暮らしていたモーセ(クリスチャン・ベール)だが、セティ王が死に、王位に就いたラムセスは、モーセがイスラエル人と知ると、エジプトから追放する。モーセは砂漠をさすらい、ミディアン地方にたどりつき、祭司の娘ツィポラ(マリア・バルベルデ)をめとって、羊飼いとして平穏に暮らした。9年後、羊を追って神の山ホレブに来ると、モーセの前で柴が燃え、その間から神の使いが現れ、イスラエルの民をエジプトから連れ出せと命じた…。

 『エクソダス:神と王』は、56年にセシル・B・デミルが監督した『十戒』の一種のリメイクで、最新のCG技術で、よりリアルなスペクタクルを作ろうとしたもの。たとえば『十戒』の最高の見せ場である海が二つに割れる場面は、デミル版では、文字通り、見る見るうちに海が縦に割れて道が現れる、いかにも神の奇跡といった感じだったが、スコット版では、地震が起こって、津波の予兆として潮が引き、海の底が現れる、と科学的だ。撮影も、『十戒』がテクニカラーの色彩豊かな絵画調だったのに対して、『エクソダス:神と王』はドキュメンタリー調で暗い。その代わり、3Dの迫力が凄い。

 主演のクリスチャン・ベールは、いわずと知れたクリストファー・ノーラン版バットマン。74年イギリス生まれで、87年にスティーヴン・スピルバーグの『太陽の帝国』で映画デビュー。以後、役柄に合わせて『マシニスト』で痩せたり『アメリカン・ハッスル』で太ったりしながら、役に完璧に入り込む天才肌の俳優として有名だ。

 対するジョエル・エドガートンは74年オーストラリア生まれ。私が彼の名前と顔が一致したのはバズ・ラーマンの『華麗なるギャツビー』でデイジーの夫を演じたときだが、その前にも『キンキーブーツ』や『アニマル・キングダム』、『ゼロ・ダーク・サーティ』などで堅実な演技を見せていた。今年は『ラビング 愛という名前のふたり』で、黒人のルース・ネッガを愛したために迫害を受ける夫役で感動的な演技を見せている。

 <出エジプト記>は“エクソダス”と言い、旧約聖書から転じて大勢の人が脱出することを指すようになった。60年にオットー・プレミンジャーが監督したイスラエル建国の物語『栄光への脱出』の原題でもある。何千年もの流浪と迫害を経て(最後はナチによる矛ローストの悲劇だ)、第二次大戦終了をきっかけに、世界中に散らばっていたユダヤ人が各国を脱出(エクソダス)し、パレスチナに戻って1948年にイスラエルを建国したのだが、その発端は<出エジプト記>(エクソダス)だったとも言える。そして現在、イスラエルの存在が、中東に様々な問題を投げかけているのはご存知の通りだ。

 クリスマスはキリスト教のお祝いなので、『ベン・ハー』や『聖衣』など、新約聖書を題材にした歴史スペクタクルを見る方が似合うが、読み物としては旧約聖書の方が断然面白い(などと言っては罰当たりだろうが)。『グラディエーター』で見事なスペクタクル史劇を撮りあげたリドリー・スコットが、<出エジプト記>を同様のスペクタクルにしようとした気持ちは分かる。ただし、スペクタクルはものすごくリアルなのに、ドラマの部分、特にジョン・タトゥーロやジョエル・エドガートンのファラオや、時代考証も、ちょっと変てこなところがあるのがご愛敬だ。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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