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映画の処方箋

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『オール・ユー・ニード・イズ・キル』2017/10/06 UP 放送日時

トム・クルーズ主演のSFバトル・アクション、実はラヴストーリー

 監督ダグ・ライマン、主演トム・クルーズといえば最新作『バリー・シール/アメリカをはめた男』が話題だが、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は、3年前の2014年に二人が初タッグを組んだSFバトル・アクション。謎の宇宙生命体に侵略された地球を舞台に、タイムループに嵌まった主人公が、1日半のスパンで時間をリセットしながらスキルを高め、地球の未来を救う。

 近未来、エイリアンの侵略で滅亡の危機に立つ地球では、世界各国の軍隊を連合した統合防衛軍が結成され、今まさにエイリアン殲滅作戦が実行されようとしていた。作戦前日、ロンドンの統合本部に呼び出された米軍報道官ケイジ少佐(トム・クルーズ)は、ブリガム将軍(ブレンダン・グリーソン)から、最前線で戦況を報道するよう命令を受ける。が、軟弱なケイジ少佐は、危険な前線行きから逃れようとして将軍の不興を買い、ただの二等兵として前線へ送られることになる。配属されたJ分隊は、叩きあげのファレウ曹長(ビル・パクストン)以下、荒くれ者揃い。兵器の扱い方もろくに教えられないまま、機動スーツを着せられ、輸送機に乗せられたケイジ。だが、上陸部隊は浜辺で待ち構えていたエイリアンによって壊滅状態。“ヴェルダンの女神”と呼ばれる勇敢なリタ・ヴラタスキ軍曹(エミリー・ブラント)もケイジの目の前で、あっけなく死ぬ。そして、ひときわ大きなエイリアンに襲われたケイジは、地雷を使ってエイリアンと共に爆死――と思った次の瞬間、出撃前日の基地に到着したばかりの自分に戻っていた。実は、ケイジが破壊したエイリアンは、未来から過去へ情報を伝達する能力を持ったアルファと呼ばれる個体で、その体液を浴びたケイジにタイムループの能力が移行したのだった。こうしてリセットされるたびに戦闘能力を高めていったケイジは、ついにはリタの命を救えるまでになり、リタの協力者カーター博士(ノア・タイラー)から、ループ能力を利用して敵の脳“オメガ”を破壊することしか地球を救う方法がない、そのためには毎日死ななければならない、と告げられる…。

 原作は桜坂洋の中高生向けライトノベル<All You Need Is Kill>。ここから萌え系の要素を抜いて、大人向けに脚色。舞台となるエイリアンとの戦争も、第二次大戦のノルマンディー上陸作戦に重ねてリアリティを持たせている。リタを有名にしたヴェルダンも、第一次大戦の激戦地として有名なフランスの地名である。

 監督のダグ・ライマン(リーマンと表記されることが多いが、実際の発音はライマン)は65年ニューヨーク生まれ。母親は画家、父親はイラン・コントラ事件の上院公聴会で主席顧問を務めたことで知られる法律家アーサー・L・ライマン。中学生の頃から短編映画を撮り始め、ブラウン大学在学中には学生主体のケーブルTV局を設立するほど優秀だった。南カルフォルニア大学映画テレビ校で学び、在学中からアイデアを温めていた『キル・ミー・テンダー』で94年に長編監督デビュー。友人ジョン・ファヴローが製作・脚本・主演した『スウィンガーズ』や『go』で注目され、マット・デイモン主演のシリーズ第1作『ボーン・アイデンティティ』から大作を任されるようになった。初期の『スウィンガーズ』や『go』では自ら撮影も担当するほどの映画おたくで、本作のようなSFアクションでもCGだけに頼らず、可能なかぎり実写にこだわっている。

 主演のトム・クルーズは今さら紹介するまでもないだろう。今回もまた重さ40キロもの機動スーツを着て、すべてのスタントを自分でこなしている。女兵士リタ役のエミリー・ブラントは『プラダを着た悪魔』で注目されたイギリスの新鋭。本作の好演がドゥニ・ヴィルヌーヴの『ボーダーライン』でのFBI捜査官役に繋がっていく。将軍役のブレンダン・グリーソンはアイルランドの名優で、4人の子はすべて俳優になり、長男のドーナル・グリーソンは『バリー・シール/アメリカをはめた男』でトム・クルーズと共演している。ファレウ曹長役のビル・パクストンはジェームズ・キャメロンの盟友で『エイリアン2』や『タイタニック』などのキャメロン作品で知られる個性派俳優だが、今年2月に心臓手術後の合併症で惜しくも61歳の若さで亡くなった。

 映画の見どころは、まずはストーリーの意外性と迫力ある戦闘シーンだが、リセットを嫌というほど繰り返し、そのたびにリタの死を目撃しなければならないケイジの想いが心にしみてくる。つまりは、せつないラヴストーリーでもあるのだ。トム・クルーズって映画の楽しませ方を本当によく知っているんだなと毎回感心する。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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