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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『COP CAR/コップ・カー』2017/07/14 UP 放送日時

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ケヴィン・ベーコンのファンは必見。

 スーパーヒーローを15歳の高校生の成長物語に描き直した『スパイダーマン:ホームカミング』が大ヒット中の監督ジョン・ワッツが、ケヴィン・ベーコンを製作総指揮と主演に迎えて撮った前作が『COP CAR/コップ・カー』で、ジャンルとしては“ひと夏の恐怖の体験もの”であり、夏休みに見るのにぴったりだ。

 抜けるような青空の下、牛がのんびり草を食む野原を家出少年2人が歩いている。小柄な悪ガキ風がトラヴィス(ジェームズ・フリードソン=ジャクソン)、ちょっと太めのいじめられっ子風がハリソン(ヘイズ・ウェルフォード)。ふだんはとても口にできないような汚い言葉(尻の穴とか、ファックとか)を言い合いながら歩いていると、林の中の空き地に乗り捨てられたパトカーを発見する。ドアは開いており、キーも見つかる。歩き疲れた2人は、大はしゃぎで乗り込み、運転を始める。その少し前、同じ空き地にパトカーがやってくる。降りてきたのはミッチ・クレッツァーという保安官(ケヴィン・ベーコン)で、トランクから死体を出すと、近くの空井戸に運び、石灰をかけて始末する。トラヴィスとハリソンが車を盗んだのは、保安官が死体を始末しているときだった。マリオカートのゲームで鍛えた運転技術で意気揚々とハイウェイを走り始める2人だが、パトカーにヤバいものが積んであったおかげで、事態は思いがけない方向へ転がっていく…。

 『COP CAR/コップ・カー』の見どころは何と言ってもケヴィン・ベーコンの怪演にある。ベーコンは1958年7月8日フィラデルフィア生まれの59歳。父親はタイム誌の表紙になったこともある建築家、母親は小学校の教師という名家の出。『ダイナー』で注目され、『フットルース』の大ヒットで青春スター的な位置づけをされるも、『トレマーズ』あたりから徐々にB級方面へとスライド。『激流』の悪漢、『告発』の囚人、『アポロ13』の宇宙飛行士など、どんな役でもこなせる演技派に変身した。ベーコンは、いくら悪人を演じても一種の軽さがあるのが持ち味。少年2人をしつこく追いかけ回す悪徳警官が笑える存在であるところが救いになっている。例えば『ノーカントリー』のハビエル・バルデムだったら、怖すぎて、少年のひと夏の体験などと言っている場合じゃなくなってしまうだろう。特に、パトカーがなくなったと知ったときのベーコンの間抜け顔は必見だ。また、無線係のミランダという女性の声は、ベーコン夫人であるキーラ・セジウィックの特別出演である。

 子役の2人、ジェームズ・フリードソン=ジャクソンはNetflixとマーベル共同製作の<ジェシカ・ジョーンズ>シリーズなど、俳優としてはずっとベテランのヘイズ・ウェルフォードも、『インディペンデンス・デイ:リサージェンス』、『ワンダーストラック』と順調にキャリアを伸ばしている。

 監督のジョン・ワッツは81年コロラド州生まれの36歳。ニューヨーク大学を卒業後、コマーシャルの監督を経て、テレビ・シリーズの監督となる。14年にホラー映画『クラウン』で劇場用長編映画デビューを飾り、『COP CAR/コップ・カー』は2作目、『スパイダーマン:ホームカミング』は3作目という“新人”であるが、無駄なものを廃したシンプルなストーリーで、少年と保安官のチェースに絞って描いているところ(場所の設定はパトカーの横に描かれた表示でテキサス州クィンラン郡だと分かるが、少年たちの家庭がどうなっているか、保安官の犯罪の背景などは台詞以外に説明はない)、明るさを強調したクリアな映像で陰惨さを薄めているところなど、バランス感覚が新人離れしている。少年たちが安全装置を外すのを知らずに銃を乱暴に扱うところなどハラハラしっぱなしで、ユーモアと恐怖、緩急の混ぜ合わせ方が見事で、味わいのある小品に仕上がっている。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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