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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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用法用量を守って正しくお使いください。

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『ホリデイ』2016/12/16 UP 放送日時

恋人のいない人に贈るクリスマス・キャロル

 アマンダ(キャメロン・ディアス)はハリウッドで映画の予告編製作会社を経営する成功したキャリア・ウーマンだが、同棲中の恋人イーサン(エドワード・バーンズ)の浮気が発覚して別れを決意。一方、ロンドンの新聞社に務めるアイリス(ケイト・ウィンスレット)は、同僚のジャスパー(ルーファス・シーウェル)との3年におよぶ報われない片思いにけりをつけようと決意。二人はインターネットの自宅交換サイトで知り合い、クリスマス休暇の2週間、互いの自宅を交換することにする。ロサンゼルスにあるアマンダの豪邸に着いたアイリスは、アマンダの元彼の友人で作曲家のマイルズ(ジャック・ブラック)と親しくなり、太陽の光が降り注ぐカリフォルニアのクリスマスを満喫。近所を散歩する足の悪い老人アーサー(イーライ・ウォラック)を助けたことがきっかけで、昔は高名な脚本家だったが、今は世捨て人のように暮らすアーサーの社会復帰を手伝うことになる。一方、自然に囲まれた可愛らしいコテージに着いたアマンダは、馴れない一人暮らしに寂しさをつのらせた夜、酔って宿を借りにきたアイリスの兄グラハム(ジュード・ロウ)に出会い、意気投合。酒の勢いを借りてベッドインしてしまう。翌朝、すぐにもロスに帰る気でいたアマンダだが、グラハムに心を惹かれ始め、もう少しイギリスに残って休暇を楽しむことにする。ところが、独身と思っていたグラハムは、幼い娘が二人もいるバツイチだった…。

 欧米ではクリスマスと大晦日は恋人や家族、友人たちと過ごす大切な祝日。特にキリストの生誕を祝うクリスマスは、サンタクロースなどファンタスティックな要素が絡むためか、ディケンズの<クリスマス・キャロル>や、フランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』など、小説にも映画にも名作が多い。

 『ホリデイ』は、クリスマス・シーズンにカップルで楽しむために作られたラヴ・コメで、クリスマスらしく、あまり現実的とはいえないストーリーが展開するが、ここで目くじらを立てても始まらない。恋に破れて傷ついた美しい女性二人が、自宅を交換することで思いがけない恋を手に入れるという、絵に描いたようなおとぎ話に乗せられて、心地よく2時間を過ごせば、それでいいのである。

 スイートな2つのラヴ・ストーリーを引き締めている隠し味が、イーライ・ウォラック演じる脚本家アーサーだ。演じるウォラック自身が、西部劇の悪漢からマフィアのボスまで強烈な存在感で知られる名脇役で、このとき91歳(2014年に98歳でこの世を去った)。彼の口から、ケイリー・グラントやアイリーン・ダンといった往年の名優の名前が次々に出てくるのも映画ファンへの嬉しいサービスになっている。特に私の胸にグッときたのは、アイリスとの出会いの場面でアーサーが語る、デパートにパジャマの上だけ買いにきた娘と下だけ買いに来た男が出会う話だ。これは名匠エルンスト・ルビッチの『青髯八人目の妻』というコメディの有名な出会いの場面で、アメリカに亡命したばかりのビリー・ワイルダーがアイデアを出し、ルビッチが気に入って採用し、ワイルダーがハリウッドで活躍するきっかけとなったことでも知られる有名なエピソードである。ちなみに、パジャマの上だけ買いにきたのはクローデット・コルベール、下だけ買いに来た男はゲイリー・クーパーである。

 監督のナンシー・マイヤーズは1949年生まれ。元夫のチャールズ・シャイアが手がけた脚本のリライトを手伝うことから次第に自身も脚本を書くようになり、チャールズ・シャイアが監督したダイアン・キートン主演の『赤ちゃんはトップレディがお好き』、スティーヴ・マーティン主演の『花嫁のパパ』などの製作・脚本を担当。ケストナーの児童小説<ふたりのロッテ>を映画化した『ファミリー・ゲーム/双子の天使』で監督デビュー。2015年のロバート・デ・ニーロとアン・ハサウェイ共演による『マイ・インターン』は世界中で大ヒットした。

 クリスマスの夜、暖かい部屋でケーキでも食べながら(一人でもカップルでも)ロマンチックな気分に浸るのには、うってつけの1本である。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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