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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『ワールド・ウォーZ』2016/10/21 UP 放送日時

世界の終末を生き抜くノンストップ・アクション

 『ワールド・ウォーZ』はブラッド・ピット主演のパニック・アクション。Zとは何かと言えばゾンビのZなのだが、公開時はブラピのファン(主に女性)を意識したためか、ホラー映画ではなく、パニック・アクション映画として宣伝された。配給が東宝東和なので、「やっぱりね」と思った人は多かったろうが、今回の“ホラーでなくパニック・アクションで”という売りは、製作会社プランBの意向、つまりプランBの社主であるブラピ自身の意向でもある。原作はマックス・ブルックスの同名小説(文藝春秋刊)だが、設定だけを借りて、後はすべて書き改めて映画化していることからも明白だ。

 主人公は元国連調査官ジェリー・レイン(ブラッド・ピット)。世界各地の紛争地帯を飛び回る過酷な生活をやめ、フィラデルフィアの郊外で、妻カリン(ミレイユ・イーノス)と娘2人と静かに暮らしていた。ある日、2人の娘と妻を連れて街に出かけたところ、突然ゾンビと化した人々に襲われ、街中がパニック状態に陥る。やっとのことで街を逃げだしたジェリーに、国連時代の同僚ティエリー(ファナ・モコエナ)から電話が掛かってきて、世界中に異常事態が広がっていることを知る。ティエリーが差し向けたヘリコプターで、ニューヨーク沖の空母へ脱出したジェリーは、家族を守るために、謎の病原体を突き止めるミッションを引き受ける。新鋭ウィルス学者ファスバック博士を連れて、最初にゾンビが発生した韓国にある米軍基地に向かうが、到着早々、“希望の星”だった博士が銃を暴発させて死んでしまう。基地に拘束されていた元CIAエージェント(デヴィッド・モース)から、イスラエルが事前にゾンビ対策をしていたという話を聞いたジェリーは、モサドの高官に会うため、エルサレムに向かうが…。

 映画に初めてゾンビが登場したのは1932年の『恐怖城』という作品だそうだが、現在のゾンビ映画のルーツ、“ゾンビ中興の祖”は68年のジョージ・A・ロメロによる『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』である。ちなみに、“ゾンビに噛まれた人はゾンビになる”というゾンビの法則はロメロが作ったものだ。それから半世紀。ロメロが自主制作したインディーズ映画として復活したゾンビは、B級ホラー映画を経て、今ではTVシリーズ<ウォーキング・デッド>などで、お茶の間にも進出した。

 こうしてゾンビが市民権(?)を得るなか、ゾンビ映画はホラーものから終末ものへとジャンルを広げることになった。ロメロが制定した法則によってゾンビがネズミ算的に増えていくことになった結果、時間がたてば自然にゾンビ人口は非ゾンビ人口を上回るからである。『ワールド・ウォーZ』の原作がまさに終末もので、ホラーというよりは、人類は世界の終末をどう生きるかをテーマにしている。ある意味で、コーマック・マッカーシーの<ザ・ロード>にゾンビを足せば『ワールド・ウォーZ』になる、と言えるかもしれない(言えないか)。ただし、映画化では、意識的にゾンビをパンデミックと重ねて描いており、そこがリアルなパニック感を誘う。エルサレムの壁をわらわらと登ってくる無数のゾンビたちがアラブの避難民にも見え、それを無慈悲に撃ち落とす場面では、何とも言えない気分になる。意外に社会派な映画でもある。

 監督はドイツ出身のマーク・フォースター。ハル・ベリーにアカデミー主演女優賞をもたらした『チョコレート』で注目され、ジョニー・デップが<ピーター・パン>の作者ジェームズ・マシュー・バリを演じた『ネバーランド』や、ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じた007シリーズ第2弾『007 慰めの報酬』などを監督。『ワールド・ウォーZ』は、『007 慰めの報酬』以上のノンストップ・アクションで、そのスピード感は半端ない。

 妻カリンのミレイユ・イーノスはテキサス州ヒューストン生まれ。デンマーク発の傑作TVシリーズ<キリング>のアメリカ版リメイク<THE KILLING>の主演を務めた。謎のCIAエージェントで特別出演するデヴィッド・モースは、シネフィル的に言えば、『インディアン・ランナー』と『クロッシング・ガード』というショーン・ペンの監督作2本に主演した玄人好みの俳優である。凶暴な悪役から静かな善人まで何でもこなし、出演時間の多少にかかわらず強烈な印象を残す達人だ。

 製作・主演のブラッド・ピットは、最近アンジェリーナ・ジョリーから離婚訴訟を起こされたばかりの渦中の人でもある。自分の製作会社を持っていることからも分かるように筋金入りの映画好き。自分の主演作だけでなく、マシュー・ヴォーンのお馬鹿コメディ『キック・アス』からエヴァ・デュヴァネイの社会派『グローリー/明日への行進』まで、硬軟取りまぜて何でも製作するところが(外見以上に)男前だなと私は思う。そして、なんと来年は『ワールド・ウォーZ 2』の製作もするそうで、まだブラピの主演以外は何も決まってないようだが、どんな映画になるのか期待しながら、まずはオリジナルの『ワールド・ウォーZ』を楽しもう。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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