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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『メラニーは行く!』2016/10/07 UP 放送日時

ボーイ・ネクスト・ドア

 『メラニーは行く!』は、『キューティー・ブロンド』のスマッシュ・ヒットでスターの仲間入りを果たしたリース・ウィザースプーン主演のロマンチック・コメディ。全米で大ヒットしてリースをメグ・ライアンに代わるロマコメ女王の座に押し上げた。

 メラニー・カーマイケル(リース・ウィザースプーン)はニューヨークで活躍中の新進デザイナー。初めてのファッション・ショーを無事成功させた夜、貸し切りのティファニー本店で恋人のアンドリュー(パトリック・デンプシー)からプロポーズを受ける。アンドリューはニューヨーク市長ケイト・ヘニングス(キャンディス・バーゲン)の息子で新進の青年政治家。仕事も私生活も順風満帆のメラニーだが、彼女には秘密があった。実はカーマイケルというのは偽名で本名はスムーター。故郷のアラバマに別居中の夫ジェイク(ジョシュ・ルーカス)がいたのだ。家を出るときに離婚届を渡していたのにサインをしぶっているジェイクにサインさせ、過去の自分にけりをつけるため、7年ぶりに故郷に戻ったメラニーは、実家の両親や風変わりな南部の人々に再会し、故郷の温かさに触れて自分を見直し始める。一方、息子の婚約に不満な市長のケイトは、メラニーの素性を探ろうとスタッフをアラバマに派遣する…。

 『メラニーが行く!』を見ていると、アメリカ的価値観というか、アメリカ人受けするツボがきちんと押さえられていることがよくわかる。日本を含む世界中の娘たちのあこがれの恋愛対象は、白馬に乗った王子様だけれど、アメリカ娘にとっての理想の恋人は、どこか知らないところから来た王子様ではなく、幼い頃に隣に住んでいた幼なじみ、初恋の相手である。スパイダーマンのピーターが初恋のメリー・ジェーンが忘れられないように、アメリカのティーンの大半は初恋のボーイorガール・ネクスト・ドアと結ばれ、故郷の居心地のいい家に住んで一生を終えたいと願う(“ボーイ・ネクスト・ドア”という歌さえある)。『メラニーが行く!』のメラニーとジェイクがまさにその理想の実現なのである。初キスの瞬間に(文字通り)雷に打たれるのだから絶対だ。

 アメリカでは大ヒットした本作だが、日本では前作の『キューティー・ブロンド』ほどヒットしなかった。それはやはり、このアメリカ的な価値観や、都会と田舎、北部と南部の地域格差をネタにしたギャグが理解されにくかったからだろう。南部では南北戦争で負けたことをいまだに根に持っている、なんてギャグを日本人が笑えるはずない。アクションやラブストーリーと比べて、コメディは国境を越えにくいのだ。

 私が好きなのは、インターナショナルに受けそうなメロドラマ化するために、悪役を作らなかったところだ。普通なら、姑のニューヨーク市長も息子の青年政治家も、意外に意地悪で腹黒かったり、意外にダメ男だったことがわかって、“やっぱり我が家が一番”的な結論を補強するのだが、この映画ではそういう姑息な手段をとっていない。姑は息子のキャリアを守るために一生懸命なだけであり、青年政治家は最後まで“意外にいいやつ”のままであって、そこが清々しい。田舎で埋もれるはずのメラニーがニューヨークで成功を手にするという意味では、女性の自立と成長を扱った映画でもある。

 主役のリース・ウィザースプーンは1976年ルイジアナ州ニューオーリンズ生まれの40歳。05年にホアキン・フェニックスがジョニー・キャッシュを演じた『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でアカデミー主演女優賞に初ノミネートで初受賞。14年に『わたしに会うまでの1600キロ』で再度主演女優賞にノミネートされている。自身の製作プロダクションを立ち上げ、『ゴーン・ガール』などの製作も手掛けた才女でもある。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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