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『フレンチ・コネクション』2016/08/12 UP 放送日時

徹底したリアリズムで時代を切り取った快作

 ウィリアム・フリードキンの『フレンチ・コネクション』は1971年のアカデミー賞で作品・監督・主演男優・脚色の4賞を制したばかりでなく、その後の刑事ものに多大な影響を与えた傑作。題名の“フレンチ・コネクション”とは、トルコのヘロインをフランスで精製し、アメリカに流す密売ルートのことで、実際にあったフランスからの麻薬の密輸事件を映画化したもの。

 幕開きはフランスの港町マルセイユ。アラン・シャルニエ(フェルナンド・レイ)は、表向きは造船所のオーナーだが、実はコルシカ出身のマフィアで、マルセイユで精製したヘロインを車に隠してアメリカに持ち込み、売りさばいていた。不審な車に目をつけたフランスの刑事が彼の尾行を始めるが、シャルニエの殺し屋ニコリ(マルセル・ボズフィ)に射殺される。同じ頃、ニューヨークのブルックリンでは、ニューヨーク市警麻薬課の刑事、ポパイことジミー・ドイル(ジーン・ハックマン)と相棒のクラウディことバディ・ルッソ(ロイ・シャイダー)がサンタクロースとホットドック屋に扮して張り込みをしていた。バーで麻薬の受け渡しが行われたところに踏み込んで売人をあげた後、高級ナイトクラブに立ち寄った二人は、マフィアのボスたちを相手に派手に札びらを切る男に目をつける。二人が後をつけると、男はサル・ボカ(トニー・ロ・ビアンコ)といって、ブルックリンのデリカテッセンの主人だが、裏でマフィアとつながっている人物だった。さっそく二人は店の向かいで張り込みを始める。情報屋から近々大量のヘロインが持ち込まれるという噂を聞いたドイルは、ボカの店に盗聴器を仕掛け、徹底的に行動を監視、ニューヨークにやってきたシャルニエに会うところを突き止める。ある日、監視の目を逃れて街に出たシャルニエを見て、とっさに後をつけたドイルだが、尾行に気づかれ、地下鉄でまんまとまかれたうえ、殺し屋ニコリから命を狙われるはめになってしまう…。

 『フレンチ・コネクション』を製作するにあたって、監督のフリードキンは実際に事件を捜査した二人の刑事、エディ・イーガンとソニー・グロッソに直接取材し、撮影にも立ち会ってもらって正確を期している。フランスのヌーヴェル・ヴァーグ、特にゴダールの『勝手にしやがれ』とコスタ=ガヴラスの『Z』のドキュメンタリー手法に強い影響を受けた彼は、本作もそれにならって撮影した。彼の方法は、まず俳優の演技をリハーサルし、その後で俳優の動きを知らないカメラマンに、“まるでドキュメンタリーのように”撮らせるというもの。そのうえ、セットは使わず、ほとんど実際に事件のあった場所で撮影許可なくロケ撮影した。ポパイがシャルニエを追いかける地下鉄の場面もぶっつけ本番だし、走る電車を高架下で追いかける、あまりにも有名なカーチェース場面も同じで、一般の車が普通に走っている道路で、スタント用の車を2、3台加えただけで撮影してしまったというから驚く。しかもハックマンが運転しているショットは彼自身が本当に運転して撮影したという(他は、マルデリグ捜査官を演じたスタントマンのビル・ヒックマンが運転した)。こんな“危険な”撮影は今ではもちろん不可能だ(警察も組合も絶対に許可しない)。だからこそ、これほどリアルな迫力が生まれたとも言えるだろう。

 ポパイ役のジーン・ハックマンは1930年生まれ。海兵隊員として従軍した後、奨学金を得て大学を卒業し、30歳で俳優を志したという遅咲きの苦労人。『俺たちに明日はない』でアカデミー助演男優賞にノミネートされてチャンスを掴み、『フレンチ・コネクション』でアカデミー主演男優賞を獲って一気にスターになった。クラウディ役のロイ・シャイダーは1932年生まれ。映画ファンには『ジョーズ』の警察署長役で知られるが、舞台出身の名優で、ボブ・フォッシーの『オール・ザット・ジャズ』でアカデミー主演男優賞にノミネートされた。惜しくも2008年に多発性骨髄腫による合併症で死去。

 シャルニエ役のフェルナンド・レイはルイス・ブニュエル作品の常連として知られるスペインの名優。殺し屋役のマルセル・ボズフィは『ギャング』、『サムライ』といったフィルム・ノワール作品で知られるフランスの名脇役で、監督作もある才人。また、ポパイのモデルとなったエディ・イーガンがポパイの上司サイモンソン役で、ソニー・グロッソがボカをワシントンまでつけていく刑事役で出演している他、現役警官や事件の当事者が多数エキストラ出演している。

 ウィリアム・フリードキンは1935年生まれ。高校卒業後、テレビ局に入ってドキュメンタリーを撮り始め、67年に『ソニーとシェールのグッド・タイムス』で監督デビュー。ブロードウェイのヒット舞台を映画化した『真夜中のパーティ』を経て、71年に『フレンチ・コネクション』の大ヒットで有名監督の仲間入り。2年後に『エクソシスト』がさらに大ヒットしたものの、その後はこの2作を超えるヒットはなく、職人監督にとどまっている。今年のカンヌ映画祭でマスタークラスの講師を務めているから、彼が再評価されるのはこれからかもしれない。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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