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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『ノウイング』2016/07/29 UP 放送日時

50年前に予言された50年後の未来が今実現する?

 ニコラス・ケイジ主演の『ノウイング』は不思議な映画である。謎解きミステリーのように始まり、デザスター・パニックを経て、驚きの結末に至る。前半と後半がまったく別の映画のようで、見ていて次第に不安になるが、悪夢のようなパニック場面の連続は一度見たら忘れられない。

 ジョン・ケストラー(ニコラス・ケイジ)マサチューセッツ工科大学(通称MIT)の宇宙物理学教授。数年前に妻を事故で失い、今は息子のケイレブ(チャンドラー・カンタベリー)と広い屋敷に二人で暮らしている。息子が通う小学校の創立50周年の日、50年前に校庭に埋められたタイムカプセルが掘り出され、50年前の小学生が想像で描いた50年後の絵が配られる。ケイレブが受け取ったのは絵ではなく数字で埋め尽くされた手紙だった。その夜、手紙の数字に、9.11の日付と被害者の数が含まれていたことに気づいたジョンは、数字が過去50年に起きた災害・事件の日付と被害者の数を並べたものであることを突き止める。まだ起きていない日付は3つ。その1つは明日、81人が死ぬと予告していた。そして当日、息子を迎えに行く途中、幹線道路でひどい事故渋滞に巻き込まれたジョンは、迂回路を探そうとナビをつけ、日付の後の謎の数字が緯度と経度を示していたこと、そして、その場所は今、自分のいるところだと知る。驚いて事故の様子を調べに行くジョンの目の前で、いきなり旅客機が落下し爆発炎上した。おそらく残り2つの日付も実現するだろう。50年前に数字の手紙を書いたルシンダは謎の死をとげていた。ジョンはルシンダの娘ダイアナ(ローズ・バーン)と孫のアビー(ララ・ロビンソン)に会って、詳しい情報を聞き出そうとするのだが…。

(ここからネタバレが含まれているので、映画をまだ見てない方は注意を)。

『ノウイング』はスリラー、サスペンス、デザスター・パニックなど様々なジャンルのテクニックを使っているが、映画自体は世界の終わりを描く終末ものというジャンルに入るだろう。終末ものには、1999年7月に人類が滅亡するというノストラダムスの終末論をネタにした東宝映画の『ノストラダムスの大予言』や、小松左京原作の『日本沈没』などがあり、今世紀に入ってノストラダムスの予言が否定されると、今度は古代マヤ文明の2012年12月人類滅亡説がクローズアップされた。『ノウイング』と同じ年に公開されたローランド・エメリッヒの『2012』がこのマヤの滅亡説を映画化したもので、『ノウイング』もこの説にインスパイアされた終末ものと思われる。けれども、この2本には決定的な違いがある。『2012』が滅びゆく世界から何とか生き延びようとする前向きな映画なのに対し、『ノウイング』は終末を避けられない運命として受け入れる、後ろ向きな映画なのだ。

主人公ジョン・ケストラー自体、妻を失ってから生きる気力を失い、息子だけが生きがいで、牧師の父と仲たがいし、両親と疎遠になっているという、暗くて後ろ向きな男である。そのうえ、予知を知ってもなすすべがない。この終末に向かってひたすら突き進んでいく感じには、一種ニューエイジ風の宗教映画の趣きがある。救いはジョンを演じるのがB級映画街道をひた走っているニコラス・ケイジだということ。これだけ暗くて重い内容(そして唖然とする、まさかの結末)が、フィクションとしての軽みを保っているのは彼のキャラに負うところ大だろう。

 監督のアレックス・プロヤスはギリシャ人の両親の下にエジプトで生まれ、3歳のときに家族でオーストラリアに移住、オーストラリアの映画学校ではジェーン・カンピオンと同窓だった人。89年『スピリット・オブ・ジ・エア』で長編監督デビュー後、CMやミュージック・ビデオを経て、ブランドン・リーの遺作『クロウ/飛翔伝説』でハリウッド進出を果たした。最新作は9月日本公開の古代エジプトを舞台にしたスペクタクル映画『キング・オブ・エジプト』だ。

経歴からも分かるようにプロヤスは映像表現に長けていて、『ノウイング』では特に雲の間からいきなり飛行機が落ちてきて爆発炎上するまでを1カットで見せるところと、ニューヨークの地下鉄衝突事故の背筋も凍るような臨場感が素晴らしい。映画の後半にはいろいろ文句もあるだろうが、この2つのデザスター場面と、少女ルシンダが謎の数字を書き残すホラー仕立ての発端部分は何度見ても面白い。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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