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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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用法用量を守って正しくお使いください。

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『マダム・イン・ニューヨーク』2015/12/04 UP 放送日時

女性の自立を描いた、スウィートな後味のインド映画。

 師走を控えてあわただしく、また、世の中も殺伐としてきた今、銃撃戦も爆発シーンもカーチェースもない、英語のできないインドの主婦がニューヨークで自分を発見する様子を描いた、心がほっこりする映画をご紹介しよう。

 シャシ(シュリデヴィ)は料理上手な家庭の主婦。家族は夫サティシュ(アディル・フセイン)と中学生の娘サプナ、小学生の息子サドル、それに理解ある姑の5人。シャシの作るお菓子は大好評で、彼女の自尊心を満足させてくれるものの、仕事の忙しい夫は彼女の存在を無視しがちなうえ、ミッション系の学校に通うサプナからは英語が出来ないことで疎まれ、秘かに傷ついていた。そんなところにニューヨークにいる姉マヌの娘ラーダ(プリヤ・アーナンド)が結婚するというニュースが飛び込んできて、婚礼の準備のため、彼女だけ一足先にニューヨークに旅立つことになる。ニューヨークに着いたシャシは、カフェで注文ひとつ出来ない自分に自信喪失。そんなとき“4週間で英語が話せる”という広告を見て、内緒で英会話を習おうと決意。地下鉄を乗り継いでマンハッタンの英会話学校に通い始めるシャシ。同じクラスにはカフェで親切にしてくれたフランス人ローラン(メーディ・ネブー)がいた。優しい先生の指導の下、少しずつ英語が出来るようになり、クラスメートたちとも打ち解けていくシャシだが、いよいよ卒業というところで最終試験の日が結婚式と重なることがわかる…。

 主演のシュリデヴィは1963年タミル・ナードゥ州シヴァカシ生まれ。4歳のときから子役として映画に出演、南のタミル語、テグル語、マラヤーラム語から北のヒンディー語まで駆使して大活躍、美しさと演技力を備えた大女優に。1996年、多くの映画でカップルを演じたボリウッド・スターのアニル・カプール(『スラムドッグ・ミリオネア』のクイズの司会者役)の兄でプロデューサーのボニー・カプールと1996年に結婚、半引退状態だったところを、本作で本格的に銀幕に復帰した。撮影当時49歳とは思えない美しさだ。ちなみにシュリデヴィとは“豊穣の女神”という意味の芸名。シャシに恋心を抱くフランス人シェフのローランを演じたメーディ・ネブーは1971年フランス生まれ。父親はアルジェリア人、母親はドイツ人で、実は英・仏・独・伊語に堪能で、アメリカとヨーロッパ各国の映画界で活躍中。アラブ的な風貌を生かしてスピルバーグの『ミュンヘン』や、リドリー・スコットの『ワールド・オブ・ライズ』などに出演した。夫サティシュ役のアディル・フセインはロンドンで演技を学んだ舞台出身の俳優で、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』でパイの父親役を演じている。冒頭のタイトルで70歳の誕生日を祝われているアミターブ・バッチャンはインドを代表する国民的名優。バズ・ラーマン監督、レオナルド・ディカプリオ主演の『華麗なるギャツビー』にマフィアの大物ウォルシャイム役で顔を出していた。本作では、飛行機に乗り合わせ、シャシを勇気づける老人を余裕たっぷりに演じている。監督のガウリ・シンデーは1974年生まれの女性で、これが長編デビュー作。夫のR・バルキも監督で、この映画ではプロデューサーを務めている。

 原題は“English Vinglish”。VinglishというのはEnglishと韻を踏むだけで特に意味はない造語。無理に訳せば“英語みたいなもの”になるだろうか。

 ひょんなことから未知の世界に迷い込んだ古風な女性が、自らの意志で少しずつ世界を広げ、新しい関係を築いていく、というのが映画のコンセプト。犯罪も悪人も出てこないニューヨークには現実味がないと言う人もいるだろうが、歌って踊って笑顔になるスウィートなインド映画の後味は格別である。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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