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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『シザーハンズ』2015/11/20 UP 放送日時

せつなくて、おかしくて、ちょっぴり怖い、ファンタジーの傑作

 『シザーハンズ』は鬼才ティム・バートンの長編4作目。元はバートンが高校生のときに書いたイラストで、そこにホラー映画の古典、ジェームズ・ホエールの『フランケンシュタイン』をヒントに肉付けしてある。バートンの初期作品はどれもユニークで楽しいが、ここでは彼の異形のものに対する愛と、ブラックなファンタジー色と、アメリカ社会批判が見事に融合していて、何度見ても面白い。

 主人公は発明家の老博士(ヴィンセント・プライス)が生み出した人造人間エドワード(ジョニー・デップ)。博士が改造途中で亡くなったため、手がハサミのまま、丘の上の古い屋敷で、たった一人で隠れ住んでいるところを、化粧品のセールスに訪れたペグ(ダイアン・ウィースト)に発見される。両親のいないエドワードを哀れに思ったペグは、エドワードを自分の家に連れ帰る。ペグの家は丘のふもとのカラフルな新興住宅地にあり、夫のビル・ボッグス(アラン・アーキン)、娘のキム(ウィノナ・ライダー)、息子のケヴィン(ロバート・オリヴェリ)の4人暮らし。エドワードは可愛いキムの写真を見て、秘かに恋をしてしまう。普通の家庭を知らないエドワードを温かく迎える親切なボッグス家の人々。風変わりなエドワードの存在はたちまちご近所の噂の的になり、エドワードはハサミの特技を生かして、植木の剪定や犬のトリミング、ヘアーカットに才能を発揮し、人気者に。ところが美容院を開業しようとして銀行から融資を断られたところから運命が暗転、キムのボーイフレンドのジム(アンソニー・マイケル・ホール)が自分の家に盗みに入るために、エドワードを騙して鍵を開けさせようとしたことから、事態はさらに悪い方向へと進んで行く…。

 主演のジョニー・デップは今でこそ大スターだが、当時は『エルム街の悪夢』などに端役で出演、テレビの「21ジャンプ・ストリート」で名前を知られるようになったところ。ジム・キャリー、トム・クルーズ、ロバート・ダウニー・Jrなどの先輩を抑えて抜擢されたものの、バートンはデップの演技が下手なことに驚いていたという逸話が残っている。にもかかわらず、これが『エド・ウッド』、『スリーピー・ホロウ』、『チャーリーとチョコレート工場』、『アリス・イン・ワンダーランド』など、今に続く名コンビの誕生となった。キム役のウィノナ・ライダーは『ビートルジュース』に続いて2本目のバートン監督作。『ビートルジュース』の翌年、『ヘザース/ベロニカの熱い日』でティーンのアイドルとなり、『ゴッドファーザーPARTIII』を過労で降板したところを、当時恋人だったデップの誘いもあって出演が決まったもの。母親ペグのダイアン・ウィーストはウディ・アレン作品で知られ、『ハンナとその姉妹』、『ブロードウェイと銃弾』でアカデミー助演女優賞を2度獲得した名女優。父親ビルのアラン・アーキンは『リトル・ミス・サンシャイン』の祖父、『アルゴ』の辣腕プロデューサーなどの強烈な役柄で知られる名優。老発明家を演じたヴィンセント・プライスは50年代から70年代にかけて一世を風靡したホラー映画の名優。老発明家役はバートンが彼のために書いたもの。肺癌を患っていたプライスの体調を考慮して、出演場面は最小限になったが、彼の存在感が光る名演を遺した。

 昔から悲恋物語には名作が多い。恋人達は、階級の差、家と家との対立、前世からの因縁、戦争など、世の中のさまざまな障害に阻まれ、引き裂かれてきた。なかでもエドワードとキムの障害は、とびきり悲しい。生まれたての無垢な心を持った人造人間エドワードは、ひたすら愛するキムのために尽くす。エドワードの真心に触れたキムもまたエドワードを愛するが、エドワードの手がハサミであるために、愛し合う二人は決して抱き合うことができないのだ。せつなくて、おかしくて、ちょっぴり怖い、愛すべきファンタジーである。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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