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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『ドニー・ダーコ』2015/10/23 UP 放送日時

ハロウィンの夜、世界の終わりが来る?

 『ドニー・ダーコ』をSF映画に分類するのは少し無理があるのではないかと私は思う。タイムトラベルの話は出て来るが、タイムトラベルを扱った映画かというと、そうとも言えない。けれども、校庭の隅に埋めたタイムカプセルを開けたら、過ぎ去った青春時代のまっすぐな気持ちが蘇ってきたような、そんなタイムトラベル感は確かにある、ちょっと不思議な青春映画である。

 舞台はマサチューセッツ州の富裕層が住む保守的な町ミドルセックス。主人公は17歳の高校生ドニー・ダーコ(ジェイク・ギレンホール)。彼は情緒不安定で精神分析医(キャサリン・ロス)の治療を受け、精神安定剤を処方されている。家族は父(ホームズ・オズボーン)、母(メアリー・マクドネル)、姉(マギー・ギレンホール)、妹(デイヴィー・チェイス)の4人。姉は高校を卒業し、ハーヴァード進学を目指して浪人中。ドニーは妹と私立の一貫校へ通っている。ときは1988年。おりしも共和党のブッシュ(父)と民主党のデュカキスの一騎打ちとなった大統領選挙戦の最中で、町は月末のハロウィンのお祭りの準備中だ。10月2日深夜0時、不思議な声に導かれたドニーは、銀色のウサギから“世界の終末までの残り時間は28日6時間42分12秒だ”と告げられる。朝、ゴルフ場の芝の上で目覚めたドニーが家に帰ると、落下した飛行機のエンジンがドニーの部屋を直撃していた。その日からドニーの周りで不思議なことが起こり始める…。

 『ドニー・ダーコ』は2001年のサンダンス映画祭で話題になったリチャード・ケリーの監督デビュー作。緻密で複雑な構成をすべて理解するには何度も繰り返して見る必要がある、ということで“リヴァースムーヴィー”と言われ、カルト的な人気を得た。ラスト・シーンを知ってから見直すと、なるほどと腑に落ちることが多いが、知らないで見ても面白さは変わらない。さらに言えば、サンダンス映画祭から8カ月後に起こった9.11同時多発テロ事件後の視点で見ると、この映画が描いた終末観が恐ろしいほどの真実味を持って迫ってくる。9.11は世界のあり方を変えてしまった事件だが、もし1988年の大統領戦でデュカキスが勝っていたら、テロ事件は起こらなかったかもしれないし、その後の世界はまったく変わってしまっただろう。バタフライ効果ではないが、ちょっとした出来事(原因)が、未来(結果)へと繋がっていくのだ、と。

 主演のジェイク・ギレンホールは映画監督の父、脚本家の母の間に1980年に生まれ、幼い頃から子役として活躍。NASAのロケットエンジニアの自伝を映画化した『遠い空の向こうに』で注目されたが、この『ドニー・ダーコ』のニューロティックな若者役が、現在の『ナイトクローラー』まで続く彼のハンサムなだけじゃない、ちょっと影のあるキャラを決定づけた。共演は姉マギーの他、英文学の教師にプロデューサーも兼ねたドリュー・バリモア、物理学教師に『ER 緊急救命室』のノア・ワイリー、母に『Major Crimes 重大犯罪課』のメアリー・マクドネル、精神科医に『明日に向かって撃て!』のキャサリン・ロスと豪華。昨年、『ザ・インタビュー』で北朝鮮の最高指導者金正恩を茶化して問題になったセス・ローゲンが悪ガキ・トリオの一人で顔を出している。また、『ダーティ・ダンシング』や『ゴースト/ニューヨークの幻』のパトリック・スウェイジが、まだ若々しく元気な姿で自己啓発セミナーの教祖を演じていることに胸を突かれる。

 2009年に妹のサマンサを主人公に『ドニー・ダーコ2』が作られ、成長したデイヴィー・チェイスが同じ役を演じた。リチャード・ケリーはキャラ創造に名前を残すだけで、内容的にはまったくの別物だが、続編が作られるほど『ドニー・ダーコ』がアメリカの若者に強烈なインパクトを与えたという証拠だろう。ある意味、9.11を予言する作品でもある。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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