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何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『サンセット物語』2015/09/25 UP 放送日時

絶頂期のナタリー・ウッドと名優達の共演

 『サンセット物語』は、前回取り上げた『オール・イズ・ロスト〜最後の手紙〜』から約半世紀前、29歳の若々しいロバート・レッドフォードが出演した作品で、原題は“インサイド・デイジー・クローバー”といい、ナタリー・ウッドがタイトルロールを、レッドフォードが皮肉屋の二枚目スターを演じている。邦題が『サンセット物語』になったのは、ナタリー・ウッドの出演作で世界的大ヒットとなったミュージカル『ウェスト・サイド物語』にあやかってのことだろう。監督は社会派ロバート・マリガン、製作はアラン・J・パクラで、パクラ&マリガンのコンビには『アラバマ物語』(61)、『マンハッタン物語』(63)、本作と、邦題に“物語”のついた映画が3本もある。

 では、あらすじを。デイジー・クローバー(ナタリー・ウッド)は、ロサンゼルスの浜辺の遊園地でスターのブロマイドを売りながら、一日中トランプ占いをしている母親(ルース・ゴードン)と掘っ立て小屋で暮らしている。父親は家出して行方不明、姉は結婚して家を出て行ってしまった。そんな毎日に飽き飽きしたデイジーは、15歳の誕生日に自分の歌をレコードに吹き込みし、スワン撮影所のスワン所長(クリストファー・プラマー)に送る。すると、撮影所から迎えの車が来て、スクリーンテストを受けることになる。デイジーにスターの素質を見たスワンは、彼女を由緒正しい家柄の娘に仕立てあげ、クリスマス・イヴに大々的なお披露目のショーを開いて売り出そうとする。その夜、デイジーは二枚目スターのウェイド・ルイス(ロバート・レッドフォード)に出会う。彼はスワンを腹黒い“闇の王子”と呼び、スワンの強引なやり方を批判する。ウェイドの率直さに惹かれたデイジーは、デビュー作のプレミア上映の夜、舞台挨拶をすっぽかして、ウェイドのヨットで一夜を過ごしてしまう…。

 あらすじだけ聞くとバックステージもののようだが、実はそうではなく、バックステージものを装った風刺映画である。パクラ&マリガンのコンビが、どの映画を頭に置いていたのかは分からないが、私の印象ではジュディ・ガーランドの『スタア誕生』のような気がする(この映画自体、マーナ・ロイがハリウッドの女王だった36年から、ジュディがミッキー・ルーニーとコンビを組んでいた40年代あたりに時代設定されている)。『スタア誕生』はジュディ・ガーランドという一世一代のエンターテイナーの歌と踊りを見せるための娯楽映画だったが、『サンセット物語』はそうではない。ナタリー・ウッドが歌えないことは誰もが知っていたし(『ウェスト・サイド物語』の歌はマーニ・ニクソンによる吹き替え。この映画もジャッキー・ウォードが吹き替えている)、むしろ、それを逆手にとって、ハリウッドという世界の虚構を描くことが目的だった。

 というのも、1960年代のアメリカ映画を見るときに忘れてならないのがヴェトナム戦争の影である。1965年といえば前年トンキン湾事件が起き、アメリカがヴェトナムへの本格介入を始めた時期にあたる。国内では64年に公民権法が制定されたものの、人種差別は収まらず、『グローリー/明日への行進』で描かれた血の日曜日事件が起きた年だ。『アラバマ物語』を製作したパクラ&マリガンのコンビがこの動きに無関心であったはずはない。つまり、『サンセット物語』で描かれている、すべてが嘘で成り立つハリウッドとは、でっちあげの口実(のちにトンキン湾事件が米軍の自作自演であったことが暴露される)によって戦争に突進していくアメリカの暗喩なのだ。

 ミュージカル・ナンバーにもっと見応えがあれば映画がもっと引き立ったのにと残念だが、さすがに俳優陣は素晴らしい。悪役のスワン所長を魅力たっぷりに演じるクリストファー・プラマーは同年『サウンド・オブ・ミュージック』に出演したばかりの36歳。新進若手俳優だったレッドフォードは、この後、典型的な二枚目役を順調にこなし、4年後の69年に『明日に向かって撃て』で一躍ブレイクする。デイジーの母親を演じた名女優ルース・ゴードンは、舞台俳優から脚本家を経て映画にカムバックしたばかりで、3年後の68年に『ローズマリーの赤ちゃん』で見事アカデミー助演女優賞を手にする。

 主演のナタリー・ウッドは当時27歳。15歳の少女を演じるにはかなり無理があるが、パクラ&マリガン・コンビの前作『マンハッタン物語』にも主演しており、流れとしては自然だろう。映画初出演は4歳の時という子役出身で、ハリウッドスターらしい波瀾万丈の生涯を送り、まだ美しい盛りの43歳で事故死した(死因はいまだに謎)。そう思って『サンセット物語』を見ると、賢明に15歳の少女を演じようとするナタリーの健気さが胸にぐっとくる。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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