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何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『特攻大作戦』2015/07/31 UP 放送日時

アメリカの男たちを泣かせる『特攻大作戦』のダーティな12人の野郎ども

8月には多くの戦争映画が放映される。これは終戦記念日が8月だということもあるが、ヨーロッパ戦線の転機となったノルマンディー上陸作戦が1944年6月6日に決行され、8月25日にパリ解放がなされたため、6月から8月にかけての夏を舞台にした戦争映画が多いからかもしれない。

 ロバート・アルドリッチの『特攻大作戦』もまたノルマンディー上陸作戦の裏で行われた秘密作戦を描いたものだ。作戦自体はもちろんフィクションで、アルドリッチの名作『キッスで殺せ』の“鞄”同様のマクガフィンであって大した意味はない。意味があるのは、これが死に行くにも等しい決死の作戦であり、そのために軍法会議で死刑または終身刑になった兵士を選んで特攻隊を組織するという設定にある。

 本部から命令を受けたウォーデン少将(アーネスト・ボーグナイン)は、軍規違反で悪名高く、転属先がなかなか見つからないライズマン少佐(リー・マーヴィン)に目を付け、隊長に指名する。少佐は、フランコ(ジョン・カサベテス)、ジェファソン(ジム・ブラウン)、ピンクリー(ドナルド・サザーランド)、ポウジー(クリント・ウォーカー)、ウラディスロー(チャールス・ブロンソン)、ヒメネス(トリニ・ロペス)、マゴット(テリー・サバラス)ら12人の囚人に訓練を施し、特攻作戦を決行することになる、というのがあらすじだ。

 映画は、12名の凶悪犯に訓練を施す前半と、実際に作戦を決行する後半に分かれるが、見どころは主として前半にある。特に師団の対抗演習で、少佐が忌み嫌う正統派のブリード大佐(ロバート・ライアン)が指揮する隊を、ダーティ・ダズン(名前の由来は、冷たい水でヒゲを剃ることに文句を言い、少佐からヒゲを剃ることを禁止された12名を、お目付役の軍曹が“12名の汚い野郎ども”と呼んだことから)が“特技を活かして”攻撃し、本部を占拠するところにある。このコメディ・タッチの楽しさが、後半では一転シリアスになり、ノルマンディー上陸作戦前夜、ブルターニュ地方の中心地レンヌにあるドイツ軍の将軍達が集まる城に忍び込み、できるだけ多くの将軍を殺し、命令系統を攪乱する、という命がけの特攻作戦になる。

  ダーティ・ダズンの中心となるのは、ジョン・カサベテスとチャールス・ブロンソンの二人だろう。カサベテスは個性派俳優を続けながら自主映画の監督を始めた頃で、『ローズマリーの赤ちゃん』でミア・ファローの夫を演じる直前。ブロンソンは『荒野の七人』や『大脱走』で名脇役として知られるようになった頃で、ジル・アイアランドと再婚し、脇役から主役へシフトする直前にあたる。また、刑事コジャックになる前のテリー・サバラス、今ではキーファー・サザーランドの父親といった方が通りのいいドナルド・サザーランド、フットボールのスター選手から俳優に転向したばかりのジム・ブラウン、歌手のトリニ・ロベスら多彩で、アルドリッチのキャスティングの妙が味わい深い。またジョージ・ケネディ演じるアンブラスター少佐、リチャード・ジャッケル演じるお目付役のボーレン軍曹が光るのが脚本の巧みなところ。担当はジョン・フォードの『怒りの葡萄』で知られる名脚本家ナナリー・ジョンソンだ。

 ノーラ・エフロンの『めぐり逢えたら』の中に、女が泣ける映画が『めぐり逢い』なら、男が泣ける映画は『特攻大作戦』だという説が出て来る。これは、前半のコメディ・タッチとは打って変わって、シリアスになる後半の特攻作戦で、12人の男たちが一人ずつ命を落としていくところを言っているのだろう。そこまで“泣ける”映画かどうかは別として、『特攻大作戦』がアメリカの男性観客に大いに受けたのは確かで、3作も続編が作られた。そのうちの最初の続編『ダーティ・ヒーロー/地獄の勇者たち』は、アーネスト・ボーグナインのウォーデン少将が再びリー・マーヴィンのライズマン少佐に死刑囚を隊員にして決死の作戦を実行させるという、まるっきりそっくり映画なのだから、本家の人気の高さが分かるというもの。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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