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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『アメリカン・ハッスル』2015/07/03 UP 放送日時

FBIが自国の政治家を騙した仰天コン・ゲームを完全映画化

 『アメリカン・ハッスル』は、『ザ・ファイター』と『世界でひとつのプレイブック』で頭角を現したデヴィッド・O・ラッセルが、FBIが詐欺師と組んで市長をはめたという実際にあったコン・ゲームを映画化したもの。

 映画のネタ元は1979年に起きたアブスキャム事件だ。FBIニューヨーク支局がアラブの大富豪がカジノに投資したがっているという架空の投資話をでっちあげ、詐欺師を使って19人の政治家を贈賄罪で辞職に追い込んだという政治スキャンダルである。アブスキャムとは、このときFBIが作った偽投資会社アブドゥル・エンタープライズのアブとスキャム(詐欺)をくっつけた作戦のコードネーム。『アメリカン・ハッスル』のハッスルにも詐欺の意味があり、FBIの言う“アラブの詐欺”とは、実は“アメリカの詐欺”だった、アメリカこそ自国の政治家を騙した詐欺師だ、という意味を込めた皮肉な題名である。

 映画は1978年4月28日、ニューヨークのプラザ・ホテルでアーヴィン(クリスチャン・ベイル)、シドニー(エイミー・アダムス)、リッチー(ブラッドリー・クーパー)が、カムデン市長カーマイン・ポリート(ジェレミー・レナー)に賄賂を受け取らせようするところから始まる。アーヴィンは子供の頃から詐欺を働いてきた根っからの詐欺師で、親から継いだガラス店とクリーニング店を経営しながら盗品や贋美術品を売りさばいていたが、友人のパーティで、今は雑誌社に勤める元ストリッパーのシドニーに出会い、頭の良さを見込んでローン詐欺に引き入れる。シドニーが英国貴族に扮し、アメリカの銀行でローンを組めない人に英国の銀行を紹介すると言って手数料を騙し取る手口だ。ところが融資を頼んできたパンチパーマのリッチーという男が実はFBI捜査官で、2人は詐欺で逮捕されてしまう。リッチーから司法取引を持ちかけられたアーヴィンは、アラブマネーを餌に詐欺師仲間を誘い出す作戦を提案。話に食いついてきた詐欺師のカールがアトランティック・シティの再開発計画を持ち出したことから、作戦はカジノの利権を握る政治家の贈賄摘発へと方向転換。カムデン市長カーマインを偽投資話で釣り上げたところに、カジノの融資と聞いてマフィアが乗り出してきたうえ、シドニーに嫉妬するアーヴィンの若妻ロザリンも加わって、作戦は予測不可能な方向へ転がっていく…。

 主演のクリスチャン・ベイルが演じたアーヴィンのモデルは天才詐欺師と言われたメルヴィン・ワインバーグ。完璧主義者のベイルは引退したワインバーグと3日間一緒に過ごし、身振りや話し方、一九分けの髪型から体型(体重を20Kg近く増やした)まで完璧にコピー。ブラッドリー・クーパー演じるリッチーは作戦を担当した2人のFBI捜査官を合体させた架空の人物。髪の毛をパンチパーマにしたのはクーパーのアイデアだ。カーマイン・ポリートのモデルは本物のカーマイン市長アンジェロ・エリチェッティで、この事件で3年間服役し、『アメリカン・ハッスル』公開直前に死去した。エイミー・アダムス演じるシドニーのモデルはイヴリン・ナイトといい、シドニーと違い本物の英国人だった。ただし、シドニーが積極的に詐欺の片棒を担いだのに対し、イヴリンは詐欺のことはまったく知らなかったという。ロザリンのモデルはワインバーグの2度目の妻マリー。マリーはジェニファー・ローレンスほど若くはなく、当時50代だったが、事件が発覚した後、自殺した。ちなみに、メルヴィンとイヴリンは1982年に晴れて結婚し、フロリダに移住したものの、1998年に離婚。今もフロリダに住んでいる。

 コン・ゲームものといえば、今も引き合いに出されるのは緻密なプロットで傑作の誉れ高い1974年の『スティング』だが、本作はコン・ゲームを描いてはいるものの、プロットよりは登場人物のキャラクターに焦点を当てている。実際、監督のラッセルはプロットより俳優の演技を重視し、たびたび即興で演技させたという。つまり『アメリカン・ハッスル』はコン・ゲームものではなく、コン・ゲームを演じる俳優のアンサンブルを楽しむ映画なのだ。特に、たった23歳で難役を演じきったジェニファー・ローレンスと、露出度過多なドレスで男たちを煙に巻くエイミー・アダムスには脱帽する。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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