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『ジャンゴ 繋がれざる者』2015/06/19 UP 放送日時

タランティーノが腕に寄りをかけた豪華版マカロニウェスタン

 『イングロリアス・バスターズ』でイタリア製B級戦争映画を自分流にリメイクしたクエンティン・タランティーノが、次作の題材にイタリア製B級西部劇(いわゆるマカロニウェスタン)を選んだのは自然の流れだろう。それが『ジャンゴ 繋がれざる者』である。元ネタはもちろんマカロニウェスタンの雄セルジオ・コルブッチが撮った『ジャンゴ(邦題は 続・荒野の用心棒)』(1966)だ。が、ストーリーはタランティーノの完全オリジナルである。

 時は南北戦争2年前の西部。鎖で繋がれ、売られていく黒人奴隷たちの前に、屋根に歯の模型をつけた馬車に乗り、妙に上品な言葉で話すドイツ人キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)が現れる。シュルツは賞金稼ぎをしている元歯科医で、お尋ね者のブリトル3兄弟の顔を知る奴隷ジャンゴ(ジェイミー・フォックス)を探していた。ジャンゴはカルーカン農園の奴隷だったが、農園主(ブルース・ダーン)の残酷な仕打ちに耐えられず、妻のブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)と逃亡したが捕まり、ブリトル3兄弟に拷問を受けたあげく、頬にRの焼き印を押され、別々に売られたのだった。シュルツに自由を与えられたジャンゴは、シュルツの従僕に化けてテネシー州のビッグ・ダディ(ドン・ジョンソン)の農園を訪れ、奴隷の監督官をしていたブリトル3兄弟を見つけて撃ち殺す。ジャンゴの腕前を見込んだシュルツは、ブルームヒルダの行方が分かるまで一緒に賞金稼ぎをしようと持ちかける。冬の間、賞金稼ぎで金を貯めた二人は、雪解けと共に山を降り、ブルームヒルダがミシシッピの大農園キャンディ・ランドへ売られたことを突き止める。極悪非道の当主カルビン・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)に近づくため、シュルツとジャンゴは奴隷デスマッチの商人と専門家に化けて乗り込むのだが…。

 ドイツ人の元歯医者と解放奴隷の凸凹コンビが賞金稼ぎをしながらテキサスからテネシー、ミシシッピへと流れていく、と聞くと、まさにロードムービーだが、タランティーノの場合、事件は道中ではなく、着いた場所で起こる。スタート地点はシュルツがジャンゴを救い出すテキサス州の荒野、次は保安官に化けたお尋ね者を殺すテキサス州ドートリー、その次はブリトル3兄弟を退治するテネシー州の綿花農園、という具合だ。双六のコマのように次の場所へ進むと新たな事件が起こり、また次の場所へと進む。上がりはもちろんジャンゴの妻が売り払われた先のキャンディ・ランドである。

 本家『続・荒野の用心棒』が低予算B級映画だったのに対し、『ジャンゴ 繋がれざる者』は比べものにならないくらい豪華だ。それに本家が92分だったのに対し、タランティーノ版は165分という長尺で、マカロニウェスタンへのオマージュが詰まっているうえに、出演者の顔ぶれが素晴らしい。最も豪華な配役は、悪役の農園主を楽しそうに演じているレオナルド・ディカプリオだが、奇怪な執事のサミュエル・L・ジャクソン始め、コルブッチ版でジャンゴを演じたフランコ・ネロや、『11人のカウボーイ』で“ジョン・ウェインを殺した男”として有名になったブルース・ダーン、元祖<マイアミ・バイス>のドン・ジョンソン、KKK団のジョナ・ヒル、そしてタランティーノ本人のカメオ出演など、脇役の隅々まで映画ファンがにやりとするような大物が多数出演している(ラスト・クレジットに注目)。

 前作『イングロリアス・バスターズ』でナチの大佐を憎々しげに演じて脚光を浴びたクリストフ・ヴァルツが、今度は一転してジャンゴを助ける正義漢を演じていることからも分かるように、『イングロリアス・バスターズ』と『ジャンゴ 繋がれざる者』はイタリアB級映画を軸として対になる作品である。が、それと同時に、アカデミー賞を制したスティーヴ・マックィーンの『それでも夜は明ける』と人種差別を軸として対になる作品でもある。ただし、黒人のマックィーンが正面から黒人問題を取り上げたのに対し、映画おたくタランティーノは同じテーマをエンターテインメントとして描いた。まさにタランティーノにしか作れない、下品で、猥雑で、残酷で、とびきり面白い豪華版マカロニウェスタンなのである。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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