知って得する!

映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
あなたに効くエピソードや解説を処方します!
用法用量を守って正しくお使いください。

161
『日本独占!第68回カンヌ映画祭授賞式ライブ』2015/05/08 UP 放送日時

今年のパルム・ドールの行方は?

 コンペ部門のラインアップが発表になった途端に批判の嵐が巻き起こった今年のカンヌ。最も問題にされたのはフランス映画の多さだ。今までは多くても4本だったのだから、今年の5本というのは前代未聞。しかもオープニングとクロージングもフランス映画なので、まさに“フランスがいっぱい”の年となった。

 では、コーエン兄弟が審査委員長を務めるコンペ部門の出品作から、今年のパルム・ドールの行方を占ってみよう。

 まずは問題のフランス映画5本の内訳は、そろそろパルムを獲っても不思議ではないジャック・オディアールの『ディーパン(仮題)』、『母の身終い』に続いてヴァンサン・ランドンと組んだステファヌ・ブリゼの社会派フィルム・ノワール『市場の法(原題)』、“フランス映画の顔” ジェラール・ドパルデューとイザベル・ユペールが夫婦を演じるギョーム・ニクルーの『ヴァレー・オブ・ラヴ(原題)』、それに2人の女優兼監督、マイウェンの『私の王様(原題)』とヴァレリー・ドンゼッリの『マルグリットとジュリアン(原題)』という恋愛映画が2本加わる。ただ、本数が多いということは、それだけ抜きんでて強い作品がなかったということでもあり、私はフランス映画にパルム・ドールは行かないと予想する。

 対するアメリカ映画は、トッド・ヘインズの『キャロル(原題)』とガス・ヴァン・サントの『シー・オブ・ツリー(原題)』の2本。『キャロル(原題)』はパトリシア・ハイスミスの原作をケイト・ブランシェットとルーニー・マーラで映画化したもの。ヘインズは『エデンより彼方に』でジュリアン・ムーアを、『ミルドレッド・ピアース 幸せの代償』でケイト・ウィンスレットを起用し、女優とメロドラマの演出に強いところを見せた。コーエン兄弟と同じインディーズ畑出身でもあり、最もパルム・ドールに近いと言えるかもしれない。一方、『シー・オブ・ツリー(原題)』は、『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー主演男優賞を受賞したマシュー・マコノヒーと、ブロードウェイのミュージカル<王様と私>でトニー賞にノミネートされたばかりの渡辺謙という、男臭い男優2人の対決。ガス・ヴァン・サントは既にパルム・ドールを受賞済みなので、映画が飛び抜けてよくなければ、パルム・ドールは遠いだろう。

 イタリアからは、ナンニ・モレッティ『私の母(原題)』、マッテオ・ガローネ『物語の中の物語(原題)』、パオロ・ソレンティーノ『若さ(原題)』の3本。モレッティは別格だが、ガローネとソレンティーノは、いつも同じ年にコンペにエントリーするライバル同志。カンヌではガローネの方が一歩勝っているが、ソレンティーノは『グレート・ビューティー/追憶のローマ』で昨年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞して一矢を報いた。さて、今年の勝敗は?

 ギリシャのヨルゴス・ランティモス、ノルウェーのヨアキム・トリアー、メキシコのミシェル・フランコといった監督が、英米のスターを使って英語で撮った作品が多いということも今年の特徴。映画界でもグローバル化が進んでいるという証拠だが、なかでも私が注目しているのは、いつもシュールで、いびつな世界を作り出すヨルゴス・ランティモスの『ロブスター(原題)』だ。

 アジアからは台湾の巨匠ホウ・シャオシェンの『黒衣の刺客』と中国の若き巨匠ジャ・ジャンクーの『山河故人(原題)』、『そして父になる』で審査員賞を受賞した是枝裕和の『海街diary』の3本。去年に続いて韓国映画がないのが寂しいが、待望のホウ・シャオシェンの武侠映画がやっと見られるのが個人的にとても嬉しい。それにジャ・ジャンクーの映画には外れがないし、是枝の『海街diray』も素晴らしい出来なので、ひょっとしたらアジアに賞の目が来るかもしれない。

 さて、結果は5月24日の夕方(日本時間25日早朝)から始まる授賞式で。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

メルマガ限定コラムもチェック!

ここでしか読めないコラムを毎月お届け。

最新のコラム

コラム一覧

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年