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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『華麗なるギャツビー(2013年)』2015/04/24 UP 放送日時

誰もが知る世紀の名作を華麗に映画化

 『華麗なるギャツビー(2013年)』は2013年のカンヌ映画祭のオープニング作品で、監督は『オーストラリア』や『ムーラン・ルージュ』などの華麗な映像テクニックで知られるオーストラリア人バズ・ラーマン。原作はF・スコット・フィッツジェラルドが1925年に発表した<グレート・ギャツビー>で、アメリカ文学を代表する名作であり、発表直後の1926年に初映画化されて以来、テレビ版を含めて5度も映画化されているほど人気のある小説である。

 舞台は1920年代。ニック・キャラウェイ(トビー・マグワイア)は名門イェール大学を卒業し、第一次大戦に従軍した後、故郷の中西部の町を出てニューヨークの証券会社に就職した。通勤のために借りたロングアイランドの家の隣には、ギャツビーという成り上がり者の大邸宅があって、夜ごとに豪華なパーティが開かれていた。ニックの家はウェストエッグと呼ばれる地域で、入り江を挟んだ対岸に昔から富裕な階級の住むイーストエッグがあり、遠縁の娘デイジー(ギャリー・マリガン)と夫のトム・ブキャナン(ジョエル・エドガートン)の屋敷があった。トムはシカゴの富豪の息子で、ニックとはイェール大学の同窓だった。ある日、ギャツビー(レオナルド・ディカプリオ)からパーティの招待状が来て、隣家に出かけて行ったニックは、思いがけなくもギャツビーの正体と、彼がなぜここに邸宅を構え、パーティを開いているのか、そして彼が5年前から秘かに温めていた純愛の対象を知ってしまう…。

 ギャツビーが何者なのかを知るには作者フィッツジェラルドの人生を知るのが一番だろう。F・スコット・フィッツジェラルドは1896年ミネソタ州に生まれ、名門プリンストン大学に進学するも、第一次大戦にアメリカが参戦すると、大学を中退して陸軍に志願。南部での訓練期間に運命の女性ゼルダ・セイヤーと出会う。1920年にゼルダと結婚し、長編第1作<楽園のこちら側>を出版。たちまちベストセラーになると、二人は時代の寵児となり、もてはやされるようになった。つまり、フィッツジェラルドはギャツビーで、ゼルダがデイジー、<グレート・ギャツビー>に描かれているパーティ三昧の生活は、まさに二人がニューヨークで送った放埒な毎日そのものなのである。そして、すべての夢に覚醒のときが来るように、アメリカン・ドリームの体現者であるギャツビーにも覚醒のときが来る。フィッツジェラルドとゼルダにも(ウディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』ではトム・ヒドルストンがフィッツジェラルドを、アリソン・ピルがゼルダを演じている)。

 この世紀の名作の映画化にあたってバズ・ラーマンは、まさに“華麗”という表現がぴったりの演出を施している。ギャツビー邸で繰り広げられる、まるでショーのようなパーティ場面がその代表だが、フィッツジェラルドが階級社会の比喩として使ったイーストエッグとウェストエッグの対比、ニューヨークとロングアイランドの中間に位置する貧民街“灰の谷”(ジョージ・ウィルソン夫婦の自動車修理工場がある)の関係の視覚化が素晴らしい。あまりに戯画化しすぎていると思う人もいるかもしれないが、原作に忠実であろうとすると、ロバート・レッドフォードがギャツビーを、ミア・ファローがデイジーを演じた1974年版のように、無難なだけで終わってしまう。誰もが知る名作には誰もが自分のイメージを持っているので、これくらいど派手に脚色して、既存のイメージをぶち壊した方がいい、と私は思う。

 主人公のギャツビーには『ロミオ&ジュリエット』でラーマンと組んだレオナルド・ディカプリオ。フィッツジェラルドのもう一人の分身であるニックには元スパイダーマンのトビー・マグワイア。デイジーには『17歳の肖像』で注目されたキャリー・マリガン。と、ここまではオーソドックスだが、トム・ブキャナン役に『エクソダス:神と王』のジョエル・エドガートン、ジョージ・ウィルソン役に『猿の惑星:新世紀』のジェイソン・クラークと新進気鋭のオーストラリア男優を配している。また、マートル・ウィルソン役のアイラ・フィッシャーはオマーン生まれ、オーストラリア育ちの女優で、お騒がせコメディアンのサシャ・バロン・コーエンの妻。暗黒街の黒幕ウルフシェイム役のアミターブ・バッチャンはボリウッド映画を代表する名優だ。こんな配役の多彩さもラーマンらしくて面白い。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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