知って得する!

映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
あなたに効くエピソードや解説を処方します!
用法用量を守って正しくお使いください。

150
『アルゴ』2014/12/05 UP 放送日時

ベン・アフレックの才能が結実したスリリングな実話の映画化

 『アルゴ』は1979年のイランのアメリカ大使館占拠事件の裏で、CIAが架空のSF映画の企画をでっちあげ、人質を救出したという嘘のような本当の作戦の映画化。2012年のアカデミー賞で作品賞、脚色賞、編集賞の3部門を獲得した。

 1979年11月、首都テヘランで、アメリカが身元を引き受けた元国王パーレビの返還を求めるデモが過激化、暴徒がアメリカ大使館内になだれこみ、大使館員と警備の海兵隊員約60名が人質にとられる事件が起きた。その際、領事部にいた6名が秘かに脱出、カナダ大使私邸に隠れることが出来たのだが、事件が長期化し、6名の存在が知られる危険が出て来た。国務省から協力を求められたCIAのジャック・オドネル(ブライアン・クランストン)は、人質奪還の専門家トニー・メンデス(ベン・アフレック)に白羽の矢を立てる。メンデスは“SF映画のロケハンのクルーにまぎれて6名を脱出させる”という奇想天外な作戦を思いつき、『猿の惑星』の特殊メイクでアカデミー賞を受賞したジョン・チェンバース(ジョン・グッドマン)に協力を求める。チェンバースは大物プロデューサーのレスター・シーゲル(アラン・アーキン)を仲間に引き入れ、二人で偽映画『アルゴ』の企画を立ち上げ、大々的に記者会見を行う一方、映画屋に化けたメンデスは6名を救出するため、捕まったら殺されるのを覚悟でイランに飛ぶ…。

 さすがにアカデミー作品賞を受賞しただけあって、とてもよく出来た映画である。まず話が面白い。スリリングな脱出作戦だが、偽SF映画製作というホラ話が絡んでくるところから面白さに厚みが増す。緊張の連続が、ジョン・グッドマンとアラン・アーキンの登場でフッとなごむ。そのバランスがとてもいいのだ。ちなみに、グッドマンが演じたジョン・チェンバースは実在の人物だが、アーキンが映画界を皮肉った毒舌で笑わせるレスター・シーゲルの方は、何人かの映画人を合成して作った架空の人物である。

 監督・主演のベン・アフレックは、『アルゴ』がアカデミー賞7部門もノミネートしたのに、なぜか本人だけノミネートされなかったことで有名になった。アフレックは不思議な人で、演技は決してうまいとは言えない。最新作の『ゴーン・ガール』でも神がかり的なロザムンド・パイクの名演に比べて明らかに見劣りがする。なので軽く見られがちだが、彼にはもっと大きな才能がある。それは映画の趣味がいいことだ。

 出世作となった『グッド・ウィル・ハンティング』で、親友のマット・デイモンと書いた脚本を自らミラマックスに持ち込み、望ましい形で映画化したことに現れているが、最近ではとみに俳優としてのキャリアを監督としての彼が助ける機会が増えているような気がする。そんな彼の才能が最もいい形で結実したのが『アルゴ』なのだ。

 イランの部分は画面の荒いドキュメンタリー・タッチ、アメリカの部分は『大統領の陰謀』などの実話映画タッチという映画の“ルック”の分け方もそうだが、キャスティングも素晴らしい。ジョン・グッドマンとアラン・アーキンの名優コンビを始め、ラスト・クレジットで本物の6名と彼らを演じた俳優の写真が並んで出てくるが、本当にそっくりで、そこまでこだわって作っていることに驚く。

 自分の作りたい映画の最高の形が頭の中にあり、それをその通りに完成させられるというのは得難い才能である。ベン・アフレックは次回作が待ち遠しい、隠れた名監督なのだ。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

メルマガ限定コラムもチェック!

ここでしか読めないコラムを毎月お届け。

最新のコラム

コラム一覧

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年