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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『イングロリアス・バスターズ』2014/03/14 UP 放送日時

ブラピのB級演技に注目、タランティーノ版マカロニ戦争ウェスタン。

『イングロリアス・バスターズ』はクエンティン・タランティーノの8本目の長編監督作品で、2009年度アカデミー賞8部門にノミネートされ、クリストフ・ヴァルツが助演男優賞を受賞、興行的にも記録的なヒットとなったタランティーノの代表作である(原題はInglourious Basterdsだが、正しい綴りはInglorious Bastards。タランティーノが本気で間違えたのか、わざとかは不明)。

映画は5つの章からなる。ユダヤ・ハンターと異名をとるナチ親衛隊のハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)が農家に匿われたユダヤ人一家を皆殺しにする第1章。連合軍内に結成されたアルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)率いるユダヤ系アメリカ人の秘密部隊“イングロリアス・バスターズ”の活躍を描く第2章。第1章でランダ大佐の魔手から逃れたユダヤ娘ショシャーナ(メラニー・ローラン)がパリで映画館主になり、イタリア戦線で戦功を挙げた狙撃兵フレデリック(ダニエル・ブリュール)主演のプロパガンダ映画「国民の誇り」のプレミア上映を開くことになる第3章。その機会を利用してナチの高官を一気に片付ける“プレミア大作戦”を立案した英国軍のフェネク将軍(マイク・マイヤーズ)が、アーチー・ヒコックス中尉(マイケル・ファスベンダー)らをフランスに潜入させ、連合国側のスパイであるドイツ人女優ブリギッテ・フォン・ハマーシュマルク(ダイアン・クルーガー)に接触させる第4章。イタリア映画人に化け、ハマーシュマルクのエスコートをしてプレミア上映に現れたバスターズたちと、映画館ごとナチスを丸焼けにしようとするショシャーナを描くクライマックスの第5章である。

章立ててはいるが、章の間にそれほど緊密な関連はない。タランティーノの映画で大事なのはストーリーよりスタイル、場面場面がスタイリッシュであるのがタランティーノ映画の特徴であり、面白さなのだ。『イングロリアス・バスターズ』の場合は、冒頭の荒野の一軒家風の農場にランダ大佐一行がやってくる場面など、まさにマカロニ・ウェスタンのノリだし、第2章のバスターズ隊のくだりはロバート・アルドリッチの名作『特攻大作戦』そのもの、という風に、マカロニ・ウェスタンと戦争アクション映画をミックスしている。マカロニ・ウェスタンも戦争アクションもB級テイストなのはもちろんだ。

タランティーノが脚本執筆に10年以上費やしたというだけあって、各章の各場面が独立した物語だといってもいいほどの完成度と緊張感があるが、特にクリストフ・ヴァルツ演じるランダ大佐が絡む場面が最高に面白い。タランティーノはランダ大佐を作品の核と考えていて、ぴったりの俳優が見つからない中、オーディションでクリストフ・ヴァルツを発見したときは、プロデューサーのローレンス・ベンダーと抱き合って喜んだという。一方、なかなか芽が出ず、一時は俳優を辞めようかとまで思い詰めたというヴァルツにとっても起死回生の役となり、アカデミー助演男優賞を受賞したのを皮切りに、大スターの仲間入りを果たしたのはご存知の通り(ちなみに、ヴァルツはオーストリアのウィーン生まれだが、国籍はドイツである)。

その他のキャストは、ブラピがプロデュースした『それでも夜は明ける』でアカデミー助演男優賞にノミネートしたマイケル・ファスベンダー(父親がドイツ人、母親がアイルランド人の独英バイリンガル)、『トロイ』でブラピと共演したダイアン・クルーガー(ドイツ生まれで、イギリスでバレエを、フランスで演技を学んだ英・独・仏のマルチリンガル)など適材適所。なかで、さすがと思ったのはブラッド・ピットである。コーエン兄弟の『バーン・アフター・リーディング』で筋肉バカのトレーナー役があまりに上手いので、もしかしたら名優ではないかと思った私だが、今回のB級感たっぷりの軽い演技を改めて見て、本当に感心した。二枚目役が多くて勘違いするが、本当は名優だったのだ。ブラピのファンの皆さん、ごめんなさい。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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