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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『ソーシャル・ネットワーク』2014/02/14 UP 放送日時

創造には悪魔が潜むか?――Facebook誕生秘話。

2010年度アカデミー賞8部門にノミネートされ、脚色賞、作曲賞、編集賞を受賞したデヴィッド・フィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』は、Facebookの創設者マーク・ザッカーバーグの成功神話を元に、真に創造的な1人の天才をめぐる友情と裏切りを描いた問題作である。

2003年秋、ハーバード大学の2年生マーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)は、天才的な頭脳の持ち主だが、社交性に欠け、ガールフレンドのエリカ(ルーニー・マーラ)とデートしているうちに口論になり、別れるはめに。寮に帰ったマークは、怒りに任せてブログに彼女の悪口を書き、ついでに大学のコンピュータにハッキングし、女子学生の顔写真を並べて投票させるサイトFacemashを一晩で立ち上げる。サイトにはたちまちアクセスが殺到、大学のサーバーをダウンさせてしまう。大学構内の有名人になったマークは、双子のキャメロンとタイラー・ウィンクルボス兄弟(アーミー・ハマー)とその友人ディヴィヤ・ナレンドラ(マックス・ミンゲラ)から、彼らが企画していたハーバードの学生専用のソーシャル・ネットワーク・サイトの制作を持ちかけられる。一度は承諾したものの、彼らのアイデアを元に新たなサイトを独自に創ることにし、親友のエドゥアルド・サベリン(アンドリュー・ガーフィールド)に1000ドルの出資を頼み、彼をCFO(最高財政責任者)として翌2004年The Facebookを立ち上げる。こうして、今や10億人以上のユーザーを持つ、世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス会社が船出するのだが…。

この映画にはFacebook創業者が実名で描かれてはいるが、脚本のアーロン・ソーキンの意図は、彼らの物語を自分のフィールドに引き入れ、真のクリエイター=創造神であるマーク・ザッカーバーグと、彼がふるい落としていく従僕たちについての物語として再構築することだった。テーマは、映画のラストで新米弁護士(ラシーダ・ジョーンズ)の言う、“創造には悪魔が必要”(字幕は“神話”には“悪”が必要)である。初め、大学の査問委員会に呼ばれたマークが、4時間でハッカーを特定したと言うセキュリティ責任者に、“4時間では遅すぎる”という場面がある。まさに、彼らの世界は“速さ”が問題なのだ。創造主であるマークは誰よりも速いスピードで先頭を走り、追いつかれない者が次々に脱落していく。その世界には“走れない”老人は最初から存在もしていない。私自身はマーク・ザッカーバーグ本人に何の興味もないが、アーロン・ソーキンの描いた彼らの姿には、シェークスピアにも通じる、権力をめぐる古典的な愛憎劇を感じた。

時制の違う2つの裁判からフラッシュバックして過去が語られるという複雑な構造のストーリーを、フィンチャーは見惚れるほど見事に料理してみせる。彼の演出は今まで以上にスピードアップされていて(一説に、映画の上映時間が長くならないよう、俳優に早口でしゃべらせたという)、それが“速さ”が最も価値を持つ世界を描くのにぴったりなうえ、一瞬の緩みもない。納得のアカデミー編集賞である。

俳優陣は皆すばらしい。最も凄いのはもちろんジェシー・アイゼンバーグだが、マークを振る女子大生エリカを演じたルーニー・マーラはフィンチャーの次作『ドラゴン・タトゥーの女』で主演、アンドリュー・ガーフィールドは『アメイジング・スパイダーマン』で新スパイダーマンに、一人で双子を演じたアーミー・ハマーは『J・エドガー』を経て『ローン・レンジャー』でタイトル・ロールを演じるなど、それぞれ大出世を果たした。

フィンチャーの俳優を見る目の確かさで言えば、ハーバード大学学長を演じたダグラス・アーバンスキーがプロの俳優ではなく、本職はゲイリー・オールドマンのエージェントと知ってびっくりした。脚本のアーロン・ソーキンはマークとエドゥアルドが広告掲載を頼みに行く会社の重役として、フィンチャー自身もボートレースの場面でカメオ出演している。ただし、ハーバードで講演するビル・ゲイツは本人ではなく、本人より本人らしいといわれるプロのそっくりさんなので、お間違いなく。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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