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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『ペイ・フォワード 可能の王国』2013/04/26 UP 放送日時

天才子役の最高の演技を楽しむ。

『エクスペンダブルズ』の回ではアクションスターの賞味期限について考えたが、彼らよりも遙かに賞味期限が短いのが子役スターだ。子役と動物には、どんな名優も勝てないと言われるように、子役には演技を超えた魅力がある。『ホーム・アローン』のマコーレー・カルキンや『アイ・アム・サム』のダコタ・ファニングなど、演技を超えた演技に感服してしまう子役は数多い。

そんな子役の1人、ハーレイ・ジョエル・オスメントは1988年4月10日生まれ。マコーレー・カルキンより8歳若く、ダコタ・ファニングより6歳年上だ。映画デビューは94年の『フォレスト・ガンプ/一期一会』で、トム・ハンクスの息子役だった。注目されたのは99年のM・ナイト・シャマラン監督の出世作『シックス・センス』。その驚異的な演技に“天才子役”の名をほしいままにした。その翌年の『ペイ・フォワード 可能の王国』は、世の中を少しでもよくしようと健気に奮闘する少年を主人公にした、まさにハーレイ・ジョエル・オスメントのための映画である。

ストーリーはというと。ロサンゼルスの新聞記者クリス(ジェイ・モーア)は事件の取材中に車を壊されてしまうが、通りかかった紳士に高級車をただで譲られるという奇妙な経験をし、これは記事になると睨んで取材を始める。その4か月前のラスベガス。7年生(日本の中学1年生)に進級したトレバー(ハーレイ・ジョエル・オスメント)は、新任のシモネット先生(ケヴィン・スペイシー)から“世界を変える方法を考え、それを実行してみよう!”という課題を与えられる。トレバーは、もし1人が3人を助け、その3人が3人ずつを助け、それが広がっていけば世界を変えられると思いつく。彼はまずホームレスの青年(ジェームズ・カヴィーゼル)を家に泊めて、お小遣いをあげ、次にシングルマザーのアーリーン(ヘレン・ハント)に、体中にひどい火傷の痕があるために孤独なシモネット先生とデートさせ、最後に体の弱いアダムをいじめっ子達から救おうとするのだが…。

原題のPay it forwardは、原作者のキャサリン・ライアン・ハイドが思いついた言葉で、pay back(誰かの行為に対して礼をする、復讐する)とは逆に、次の人に善行を先渡ししていけば、善行がネズミ算的に増えていく(いわば善意のネズミ講)という考え方。とはいえ、映画のテーマは“世界を変える”などという大きなものではなく、少年の善意が母親と先生を結びつけるという“小さな”ラブストーリーである。

監督は『ER 緊急救命室』シリーズで知られるミミ・レダー。ラスベガスという華やかな街の裏側で、それぞれに問題を抱えた人々が懸命に生きる姿を丁寧に描いている。キャストはケヴィン・スペイシー、ヘレン・ハントという2人のアカデミー主演賞受賞俳優に加え、トレバーの父親にジョン・ボン・ジョヴィ、祖母にアンジー・ディキンソンと豪華。ジェイ・モーアに道を教える警官役でハーレイの父親で俳優のユージーン・オスメントがカメオ出演している。

子役と大人の俳優の間には高いハードルがあって、ジョディ・フォスターのような成功例もあるが、マコーレー・カルキンやブラッド・レンフロのように、ハードルを越え損ねて失速する例も多い。いくら天才といっても子役は子役。今年25歳になったハーレイ・ジョエル・オスメントが無事に大人の俳優として大成することを祈りつつ、賞味期限の短い天才子役の、その最もよい時代の名演を楽しみたい。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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