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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『速報!第85回アカデミー賞』2013/03/01 UP 放送日時

さて、今年の受賞結果は?

2月25日(現地時間2月24日夜)、ロサンゼルスのドルビーシアター(旧コダックシアター)で開かれた授賞式で発表になった本年度のアカデミー賞。主要6部門で私の予想が当たったのは、鉄板といわれた2部門、主演男優賞と助演女優賞のみという悔しい結果に。負け惜しみではないが、技術系の部門はほとんど当たったのに(証人は一緒に中継を見ていた友人)、なまじ映画を見ていると、好き嫌いや、ご贔屓感情が入って当たらなくなること映画祭のトトカルチョと同じ(ちなみに、トトカルチョの語源はイタリア語でトト=くじ、カルッチョ=サッカーで、サッカーくじのこと)。

私の見るところ、今年の受賞を左右する要素は3つあった。1つ目は、ベン・アフレックが監督賞のノミネートから漏れたことが『アルゴ』にどれだけ影響するか。アカデミー賞の前哨戦で『アルゴ』が圧勝したのは、実はこの“ノミネート漏れ事件”で改めてベン・アフレックと『アルゴ』がクローズアップされ、同情票が集まったことも大きく、この影響がアカデミー賞まで続くかどうかが鍵だった。

2つ目は、『世界にひとつのプレイブック』がどこまで食い込めるか。主要6部門のノミネートを果たせたのは、さすがに宣伝上手のワインスタイン兄弟だったが、作品自体がインディーズ系だし、ロバート・デ・ニーロとジャッキー・ウィーバーまでノミネートしたのは、役の大きさから言っても出来すぎで、結果に繋がるかどうかは疑問だった。

3つ目は、そのワインスタイン兄弟の凄腕で、昨年『アーティスト』が主要3部門を制したことへの反動である。『アーティスト』は1920年代のハリウッドを舞台に、ダグラス・フェアバンクスをモデルにした無声映画仕立ての作品だったから、授賞式の壇上に受賞者が登場するまで『アーティスト』がフランス映画だということに気づかなかったアカデミー会員も多かったのではないかと私は思う(マジで)。その結果、アメリカ映画の祭典であるアカデミー賞でフランス人に天下をとられて後味悪い思いをした会員はさらに多かったろう。今年、フランス語をしゃべる『愛、アムール』をアメリカ映画と勘違いする人もいないだろうし、どのノミネート作より作品的には上とはいえ、外国語映画賞以外の受賞はないと私は見ていた。

実際に授賞式を見ていて改めて思ったのは、アカデミー会員=業界人は勢いのあるものが好きだということだ。作品賞の『アルゴ』は確かに同情票も多かったろうが、ジョージ・クルーニーのプロデューサーとしての勢いが勝っていたと思う。ジェニファー・ローレンスが主演女優賞を受賞したのも、『ウィンターズ・ボーン』で注目され、『ハンガー・ゲーム』を大ヒットさせた彼女の勢いにハリウッド人種が魅了されたからだろう。

そのあおりで割を食ったのは『ゼロ・ダーク・サーティ』だった。低予算の『ハート・ロッカー』でアカデミー賞を制したキャスリン・ビグローだが、潤沢な資金を得て、思い通りに完成させた『ゼロ・ダーク・サーティ』には票が集まらなかった。受賞作の『アルゴ』と『ゼロ・ダーク・サーティ』は同じCIAの極秘作戦を描いた作品だが、前者を陽とすれば後者は陰。『ゼロ・ダーク・サーティ』は目的を達成するためなら汚い手段も辞さない、冷徹な作戦の暗部まで克明に描いたビグローの代表作となる秀作だが、そのリアルさが映画人に嫌われたのだと思う。偽映画の企画をでっちあげてイランから人質を脱出させるという、まるで漫画チックな作戦を描いた『アルゴ』が、公開時にアフレック自身が主演したことで現実が歪曲されたと酷評されたことを考えると、なおさら皮肉な結果である。

さて、皆さんの予想は当たりましたか?これから『ジャンゴ、繋がれざる者』、『愛、アムール』、『リンカーン』などのノミネート作品が次々公開されていくので、今年の受賞結果を確かめるためにも映画館に足を運んでみてはいかがでしょう。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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