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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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「ホワイトハンター ブラックハート」2012/11/09 UP 放送日時

“男の中の男”の敗北

ジョン・ヒューストンが1951年に監督した名作『アフリカの女王』は、主演のハンフリー・ボガートにアカデミー主演男優賞をもたらしただけでなく、様々な逸話を残した。中でも特筆すべきなのが、キャサリン・ヘプバーンが難航するロケの日々をユーモアたっぷりに描写した<『アフリカの女王』と私>(文春文庫)、それに脚本を担当したピーター・ヴィアテルの小説<ホワイトハンター ブラックハート>(文春文庫)の2冊である。

クリント・イーストウッドが監督した映画『ホワイトハンター ブラックハート』は、そのヴィアテルの小説の映画化で、『アフリカの女王』の撮影を背景にしてはいても、単なる内幕ものではなく、もっと大きなテーマを持っている。とはいえ、『アフリカの女王』がどんな映画だったかを知っている方が楽しめるので、まずは簡単に紹介しよう。

『アフリカの女王』のプロデューサーは、のちにデヴィッド・リーンと組んで『戦場に架ける橋』や『アラビアのロレンス』を製作するサム・スピーゲルで、彼がC・S・フォレスターの同名小説の映画化権を買ったことが事の発端である。スピーゲルはジョン・ヒューストンに監督を依頼し、ハンフリー・ボガートとキャサリン・ヘプバーンが主演を引き受けたことで製作が滑り出し、ベルギー領コンゴでロケが行われることになる。ところが、ヒューストンはサファリで象を狩ることしか頭にないうえ(象狩りが監督を引き受ける条件だった)、脚本が仕上がらない。そこで、狩り出されたのがスイスにいたピーター・ヴィアテルで(だから『アフリカの女王』のクレジットには彼の名前がない)、象狩りにまで付き合った彼の体験を小説化したのが<ホワイトハンター ブラックハート>なのだ。

映画『ホワイトハンター ブラックハート』の見どころは、主人公のジョン・ウィルソンを演じるクリント・イーストウッドにある。ウィルソンのモデルとなったジョン・ヒューストンは、名優ウォルター・ヒューストンを父に持つ、生まれながらの映画人である。俳優としての出演作も多いが、単に映画監督とか俳優とかの枠に収まらない、強烈な個性の持ち主で、オーソン・ウェルズと並ぶ映画の怪人といっていい。

イーストウッドがヒューストンを意識していることは、同じ題名を持った西部劇(『許されざる者』)を撮っていることからも明白だが、この映画のイーストウッドを見ていると、さらに深く、自分を彼と重ねて見ていることがわかってくる。例えば、滞在先のアフリカのホテルで、ユダヤ人のヴィアテル(映画の中ではヴェリル)の前で平気でユダヤ人の悪口を言う上流階級の英国女性をやりこめ(慇懃な言葉遣いの中に侮蔑語を散りばめた台詞が素晴らしい)、お盆を落とした黒人のボーイを容赦なく蹴りつける白人の支配人に決闘を申し込み、かえってこてんぱんに殴り倒されてしまう場面。正義漢で、不正を見過ごせない。人種を超えて、優れたものを畏敬する。そんなところにヒューストン=イーストウッド的な“男の中の男”像が現れているように思う。

クライマックスはもちろん象狩りである。我がままを通して象狩りに出かけたウィルソンの前に、念願の象が現れる。しかし、それは子連れの母象だった。一瞬、躊躇するウィルソン。そして……。この後は実際に映画を見て、ヴィアテルが小説に込めたテーマをじっくり味わっていただきたい。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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