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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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「サイドウェイ」2012/10/26 UP 放送日時

人生の脇道で、ワインを飲みながら一休み

Sideway、副詞で“横に”、名詞で“脇道”。映画『サイドウェイ』の主人公は小説家志望の冴えない国語教師マイルズ(ポール・ジアマッティ)。離婚の痛手から立ち直れず、何事にも後ろ向きなダメ男の彼だが、ワインには一家言あり、やっと結婚を決意した親友で売れない俳優のジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)を誘って、結婚式までの1週間をワインとゴルフ三昧で過ごそうとカリフォルニア州サンタバーバラのワインロードへ向かう。が、旅の途中で、ワイナリーで働くマヤ(ヴァージニア・マドセン)とステファニー(サンドラ・オー)という女盛りの美女に出会ったことから、独身最後の旅が次第に脇道に逸れていき…、というお話。

監督のアレクサンダー・ペインは、出世作の『アバウト・シュミット』で保険会社を定年退職した男シュミット(ジャック・ニコルソン)を、最新作の『ファミリー・ツリー』で家族の問題に直面せざるをえなくなったハワイ在住の弁護士(ジョージ・クルーニー)を主人公に、一貫して人生との折り合いの付け方を描いてきた人。中間に当たる『サイドウェイ』もまた、人生の黄昏を目前にした主人公が、人生の本筋からちょっと脇に逸れたところで、自分の人生を考え直すという物語である。

ペイン作品の面白さは登場人物のキャラ作りとディテールにある。『アバウト・シュミット』の、シュミットが養子にしたアフリカの子供と文通するところなど(日本のテレビでもよく流れている“チャイルド・スポンサー募集”という、あれ)、チャリティーの偽善を突きつつも、しみじみとした可笑しさが滲み出していたが、『サイドウェイ』にも、昨今の過熱気味のワインブームと鼻持ちならないワイン半可通たちの姿がカリカチュアされていて、ニヤリとさせられる。ちなみに、ペインの本名はパパドプロスといい、両親はネブラスカ州オマハでギリシャ料理店を開いているそうだ。

さて、ディテールの面白さと並ぶ、もう1つの見どころは俳優の演技にある。ペインのキャスティングの巧さには定評があり、この映画でも主要キャスト全員が、様々な賞にノミネートされた(なぜか当時ペイン夫人だったサンドラ・オーだけ、どの賞にもノミネートされなかった)が、特に脚光を浴びたのがポール・ジアマッティだった。それまでも上手い脇役として知られてはいたが、まさか自分が主役を張れる恋愛映画があるとは本人も思わなかったのではなかろうか(前年『アメリカン・スプレンダー』でコミック界の有名な変人作家ハービー・ピーカーを、彼しかあり得ない名演で演じてみせてはいるが)。

頭の毛が薄く、チビで小太りな中年ダメ男というマイルズの印象とは裏腹に、ジアマッティ本人は、最年少でエール大学の学長になった文学教授バート・ジアマッティ(コミッショナーとして、野球賭博に関与したピート・ローズを球界から永久追放処分にした人でもある)を父に、女優トニ・スミスを母に持ち、本人もエール大学で英文学の学士と美術の修士を収めたエリートであって、身長も1m74と意外に高い。最新作『ロック・オブ・エイジズ』で共演したトム・クルーズの身長(公表)より4センチ高いのだから、俳優の演技力はあなどれない。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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