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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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「リトル・ミス・サンシャイン」2012/09/28 UP 放送日時

負け犬一家のきずな再生の旅

前回の『ザ・エージェント』はアメリカン・ドリームの見事な成功例だったが、今回は見事な失敗例を描いた作品を紹介しよう。

題名の“リトル・ミス・サンシャイン”とは、6歳〜7歳の少女を対象にしたミスコンのこと。地区大会で1位だった少女がドーピング検査に引っかかって(ダイエット薬を飲んでいた)失格したため、フーヴァー家の一人娘オリーヴに出場資格が回ってくる。そこで、ニューメキシコ州アルバカーキからカリフォルニア州レドンド・ビーチまで、おんぼろのミニバスに乗って1300Km近く旅をする家族のてんやわんやを描いたコメディである。

監督はジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ハリス。映画界でのキャリアは浅いが、MTV番組を創設して新進のミュージシャンを世に出したり、ミュージックビデオを監督したりで、業界では有名なご夫婦。それだけに、成功を手にした一握りの人達の影で、大勢の人達が消えていくのを肌で感じてきたのだろう、人間を単純に勝者と敗者で分けてしまうアメリカン・ドリーム的思想に批判的で、それがこの映画が多くのアメリカ人に受けた理由の1つだと思う。

一家は絵に描いたような負け犬(およびその予備軍)揃い。パパのリチャード(グレッグ・キニア)は、9ステップ成功術を考案し、出版社に売り込み中だが、成功にはほど遠い。ママのシェリル(トニ・コレット)は唯一の働き手で、一家を支えるしっかり者だが、家事はおざなり。長男ドウェーン(ポール・ダノ)は人間嫌いの引きこもり。グランパ(アラン・アーキン)は、ヘロイン中毒がばれ、老人ホームを追い出されて居候中。ちょっと太めの娘オリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)は、“リトル・ミス・サンシャイン”で優勝するのが夢だが、誰もが無理だと思っている。伯父フランク(スティーヴ・カレル)は、プルースト研究家のゲイで、恋人と仕事をライバルに奪われて自殺未遂(自殺さえも失敗)。そんな負け犬達が、旅を通じて、家族として1つに繋がっていく。人生の本当の勝者とは誰か。それがこの映画のテーマである。

見どころは、やはりクライマックスの“リトル・ミス・サンシャイン”全国大会だろう。ジョンベネ事件で有名になった、幼い少女に大人の格好をさせて競わせる異様な世界の描写にデイトン&ハリス夫妻の毒がたっぷり含まれていて、とても可笑しい。ミスコンで優勝するような少女とはまったく違った魅力を持つオリーヴの存在そのものが、見事なミスコン批判になっている。

細部までよく練られているので、何度見ても面白い。私は今回、部屋に飾られた結婚写真を見て、初めてドウェーンが連れ子で、彼がいじけたきっかけが母親の離婚と再婚だったことに気づいた。インディーズ作品ながらキャストは豪華。特に名優アラン・アーキンは、この不良グランパ役でアカデミー賞助演男優賞を受賞した。医者役でプロデューサーのマーク・タートルトーブがカメオ出演し、ミスコンのアシスタント役で『24』のクロエことメアリー・リン・ライスカブも登場。本当に細部まで目を凝らしてご覧ください。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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