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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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「真珠の耳飾りの少女」2012/08/31 UP 放送日時

名画<真珠の耳飾りの少女>に秘められた愛の物語

カーク・ダグラスがゴッホに扮したヴィンセント・ミネリ監督の『炎の人ゴッホ』、ロートレックを主人公にしたジョン・ヒューストン監督の『赤い風車』、あるいは絵画の創造過程そのものを題材にしたピーター・グリーナウェイの『レンブラントの夜警』など、絵画と画家の世界は、これまでも映画作家の興味を熱く惹きつけてきた。世界で最も有名な肖像画で、映画の題材としても最も多く取り上げられてきたといえば、間違いなくダ・ヴィンチの<モナリザ>だろうが、今、それに次ぐ勢いで人気を高めているのがフェルメールの<真珠の耳飾りの少女>である。世界的なフェルメール・ブームというのは20年ほど前に始まったそうだが、今まさに東京・上野の2つの美術館がフェルメールの名画を展示して何十万人ものファンを集めている。その人気に間違いなく一役買ったのが、トレイシー・シュヴァリエの小説とピーター・ウェバーの映画だ。

小説<真珠の耳飾りの少女>は、全世界で200万分を売ったというベストセラーで、名画誕生の経緯を、想像力を駆使して創造したフィクションである。元は<青いターバンを巻いた少女>とも呼ばれていたこの名画は、“トローニー”という特定のモデルのいない絵画の種類に属しており、小説の主人公となった少女が実在していたわけではない。ただ、こんな秘められたラヴ・ストーリーが存在しても不思議ではないと思わせるだけの力が、この少女の瞳にはある。それこそフェルメールが天才たるゆえんだろうけれど。

舞台は貿易で栄えた17世紀中頃のオランダの町デルフト。陶器職人の娘グリート(スカーレット・ヨハンソン)は、家計を助けるため、画家フェルメールの家に女中奉公に入ることになる。そこはフェルメール(コリン・ファース)の妻の実家で、厳格な女主人マーリア(ジュディ・パーフィット)が一切を取り仕切っていた。アトリエでは今まさに<真珠の首飾りの少女>が描き進められている。次第に絵画に興味を持ち、光と色彩の不思議に目を開かれるグリート。嫉妬深い妻カタリーナ(エシー・デイヴィス)と口うるさい姑マーリア、好色なパトロン、ファン・ライフェン(トム・ウィルキンソン)に囲まれたフェルメールもまた、美しく聡明なグリートに特別な感情を抱くようになり、ついには彼女をモデルに肖像画を描こうと思い立つが…。

監督は、これが劇映画デビューとなるピーター・ウェバー。2007年の『ハンニバル・ライジング』を経て、現在はトミー・リー・ジョーンズがマッカーサーを、火野正平が東条英機を演じた新作『エンペラー』を完成させたばかり。

主演は、現在公開中の『アベンジャーズ』でアクションもこなす大活躍のスカーレット・ヨハンソン。デンマークの血を引く透明で硬質な美しさ(まだ20歳前だ)は<耳飾りの少女>にぴったり。フェルメールには『ブリジット・ジョーンズの日記』で、イギリス女性の結婚したい男性ナンバー1、マーク・ダーシーを演じたコリン・ファース。フェルメールのパトロン、ファン・ライフェンは、ハリウッド映画に引っ張りだこなイギリスの名優トム・ウィルキンソン。グリートのボーイフレンド、ピーターは、クリストファー・ノーランの『インセプション』や『ダークナイト』のスケアクロウ役などで活躍中のキリアン・マーフィ。

とはいえ、何と言ってもこの映画の最大の見どころは、フランス出身の撮影監督エドゥアルド・セラが手を掛けて作り上げた映像美だろう。フェルメールと彼の先輩にあたる巨匠レンブラントが活躍した17世紀半ばのオランダ絵画の世界が見事に再現されていて、絵画好きなら、セラがお手本にした名画を幾つも指摘できるはず。

本物のフェルメールの<真珠の耳飾りの少女>を見たい人は、東京・上野で開催中の東京都美術館の<マウリッツハイス美術館展>へ。また、国立西洋美術館の<ベルリン国立美術館展>には<真珠の首飾りの少女>(映画の冒頭で制作中だった絵)が出品されている。両方とも2012年9月17日までで、その後、<耳飾り>は神戸市立博物館へ、<首飾り>は九州国立博物館へ巡回する。展覧会に行かれなかった方は(もちろん行かれた方も)、映画『真珠の耳飾りの少女』をお見逃しなく。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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