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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『衛星生中継!第84回アカデミー賞レッドカーペット』2012/02/03 UP 放送日時

第84回アカデミー賞予想

賞の予想ほど難しいものはない。カンヌ映画祭に通い始めて四半世紀になるが、去年の『ツリー・オブ・ライフ』のようなテッパン候補以外、当たったためしがない。審査員がたった9人のカンヌ映画祭でさえダメなのだから、映画科学芸術アカデミー会員6000人以上が投票するアカデミー賞の予想は、その666倍は難しいことになる。ゆえに、私の予想は、あくまで予想にすぎないことをお断りしておく。
 
今年、作品賞の候補にあがった映画は9本。そのうち最多ノミネート作品となったのは、マーティン・スコセッシの『ヒューゴの不思議な発明』で、監督、脚色、撮影、美術など11部門。ブライアン・セルズニック原作の児童小説の3D映画化で、1930年代のパリを舞台に、親を亡くし、鉄道駅に住み着いた少年ヒューゴが、捨てられた機械人形を通して、忘れられた映画作家ジョルジュ・メリエスと映画の楽しさを発見していくという物語。2つの大戦を挟んだ暗い時代を最新の3D映像によって、まるでファンタジーの世界に作り変えているところがすばらしく、忘れられた映画の再評価とは、長年カラーフィルムの修復と保存に取り組んできたスコセッシらしいテーマでもある。
 
これに対抗するのはミシェル・アザナヴィシウスの『アーティスト』。監督、主演男優、助演女優、撮影、美術など10部門。ハリウッドが舞台とはいえ、フランス映画がここまでアカデミー賞に食い込んだのは歴史的な出来事だろう。順風満帆、昨年のカンヌ映画祭で補欠からコンペに繰り上がり、男優賞を獲ったあたりから、ずっと幸運の女神が微笑みっぱなしである。決して嫌いな映画ではないが、ストーリーも手法もすべて借り物のパスティーシュ作品をここまで評価するのはいかがなものかと私は思う。この辺りが、“シンプルで感動的”な映画が大好きなアメリカ人気質だろうか。
 
スティーヴン・スピルバーグの『戦火の馬』がもっと入るかと思っていたが、作品、撮影、音楽など6部門で、何より驚きだったのはスピルバーグが監督賞にノミネートされなかったことだ。それだけ『アーティスト』のあおりを食ったといえるかもしれない。原作はトニー賞を5部門制覇した舞台劇で、それをデヴィッド・リーンもかくやと思うクラシックな作りの映画に仕上げてあり、私はスピルバーグの円熟を感じた。主演のジェレミー・アーヴィンは新人だから仕方がないが、父親を熱演したピーター・ミュランがノミネートを逸したのは、いかにも残念だ。
 
主演男優賞ノミネートの5人のうちで、最も賞に近いのが『ファミリー・ツリー』のジョージ・クルーニーだ。芸能界のサラブレッドで、監督作品もあり、(私生活はともかく)政治意識の高さ、行動力で業界人から尊敬を集めている彼。作品自体の評価も高く、アレクサンダー・ペインは(スピルバーグを抑えて)監督賞にノミネートされているくらいで、本命中の本命。彼の対抗は『マネー・ボール』のブラッド・ピットだが、ここはクルーニーで決まりだろう(あくまで予想ですよ)。
 
主演女優賞は、演技的には圧倒的に『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』でタイトルロールを演じたメリル・ストリープだが、オスカー前哨戦では『マリリン 7日間の恋』でマリリン・モンローを演じたミシェル・ウィリアムズが圧勝している。誰もが上手いと認めるメリルより、男で苦労しているミシェルを応援したくなる気持ちは分かるが。
 
さて、今年のダークホース的作品は『ヘルプ 心がつなぐストーリー』だろう。人種差別の根強い1960年代の南部を舞台に、白人家庭のメイドとして奴隷のように働く黒人女性たちが自由な声を上げ始めるというアメリカ映画らしい感動作。主演女優にヴィオラ・デイヴィス、助演女優にジェシカ・チャスティンとオクタヴィア・スペンサーがWでノミネート。おそらくオクタヴィア・スペンサーが受賞するのではないかと私は思う。
残念ながらノミネートから漏れてしまったのは、クリント・イーストウッドの力作『J・エドガー』や、ニコラス・ウィンディング・レフンのすばらしくスタイリッシュな『ドライヴ』、スティーヴ・マックィーンの映像アート『シェイム』など。暗くて重い(高尚な)作品が避けられたように思えるのは、不況が続く年のせいだろうか。ラッセル・クロウが不満を漏らすまでもなく、『ドライヴ』や『スーパー・チューズデイ 正義を売った日』のライアン・ゴスリングがノミネートされなかったのは不思議としか言いようがないし、レオナルド・ディカプリオに至っては、あんなに賞ばかり獲った『タイタニック』でさえノミネートから外されたのだから、呪われているとしか言いようがない。
 
だが、大丈夫。ノミネートから外れようが、賞に漏れようが、アカデミー賞がある限り、チャンスは必ずめぐってくる。それも何度も。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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