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何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『めぐり逢えたら』2011/09/30 UP 放送日時

『めぐり逢えたら』について私が知っている二、三の事柄

人には何度も見直したくなるお気に入りの作品が必ずある。映画史に残るような名作でなくても、むしろ、そんな立派な作品でない方が愛着が強い。『めぐり逢えたら』も、そんな私の愛すべきお気に入りの1本である。この映画を好きな人は、きっと何度も繰り返して見ているだろうから、今回は映画の内容より、トリビア的な紹介を。
 
監督のノーラ・エフロンは1941年生まれ。両親はジョン・フォードの『栄光何するものぞ』やウォルター・ラングの『ショウほど素敵な商売はない』などを手がけた名脚本家ヘンリー&フィービー・エフロン夫妻。ノーラの妹2人、デリアとエイミーも脚本家になった。
 
大学卒業後、ライターを経て脚本家になったノーラは、1983年マイク・ニコルズ監督の『シルクウッド』の脚本で映画に進出。続いて脚本を担当した『心みだれて』は、夫カール・バーンスタイン(『大統領の陰謀』でロバート・レッドフォードが演じた、ウォーターゲート事件の報道でニクソン大統領を辞任に追い込んだジャーナリスト)との離婚の顛末を書いた自著の映画化である。
 
ノーラがコメディ作家として注目されたのが1989年のロブ・ライナー監督の『恋人たちの予感』。主演はビリー・クリスタルとメグ・ライアンで、ライアンはこの作品で一躍キュートなアメリカン・スイートハートとして注目され、“ロマコメの女王”への道を歩み始める。また、監督のロブ・ライナーは、『めぐり逢えたら』にトム・ハンクスの同僚役で友情出演(“ティラミス”を教える太った男だ)。
 
ノーラは1992年にスタンダップ・コメディアンを目指す子持ちの女性を描いた『ディス・イズ・マイライフ』で監督デビュー。2作目の『めぐり逢えたら』の大成功で、ヒットメーカーとしての名声を確立する。エフロン、ライアン、ハンクスの黄金トリオは、1998年に『ユー・ガット・メール』で再結成される。
 
『めぐり逢えたら』は、クリスマス・イブのボルチモアで始まり、バレンタイン・デーのニューヨークで終わるが、その間、主人公の二人が1度も出会わないという凝った構成になっている(したがって最後の台詞は“はじめまして”だ)。この映画を特別なものにしているのが、ロージー・オドネルら個性的な脇役たちと、その台詞の面白さ、ストーリー展開のテンポのよさだろう。さすが名脚本家を両親に持ち、ショービズ界で育ったセンスのさだ。そして、忘れてはならないのが作中引用されている数々の名作映画と、“スターダスト”を始めとする数々のヒット曲の効果である。
映画が下敷きにしているのは、もちろん1957年のレオ・マッケリー監督の『めぐり逢い』。互いに婚約者のいるケイリー・グラントとデボラ・カーが、豪華船の中で出会い、恋に落ち、エンパイア・ステート・ビルの屋上で再会を約束して別れるが…、という“すれ違い”メロドラマの名作で、実はマッケリーが1939年にシャルル・ボワイエ&アイリーン・ダンで映画化した『邂逅』のリメイク。この後、1994年にはグレン・ゴードン・キャロン監督、ウォーレン・ベイティ&アネット・ベニング主演で3度目にリメイクされる。
 
女性陣がこよなく愛する『めぐり逢い』に対抗し、サム(トム・ハンクス)と妹スージー(ハンクスの妻リタ・ウィルソン)の夫グレッグ(ヴィクター・ガーバー)が、男達が涙する映画として意気投合するのがロバート・アルドリッチ監督の『特攻大作戦』だ。第二次大戦下のフランスで、囚人から募った12人の特殊部隊が、難攻不落のドイツ軍司令部を攻撃するというアクション映画の名作である。
 
クリスマス・イブにアニー(メグ・ライアン)が婚約者ウォルター(ビル・プルマン)をボルチモアの実家に連れていき、家族に紹介した夜、ワシントンに戻る途中、ラジオで運命の“シアトルの眠れぬ男”の告白を聞く。そのときに紅茶を買いに立ち寄るダイナー(2人のウェイトレスがラジオの話題で盛り上がっている)は、バリー・レヴィンソン監督の“ボルチモア三部作”の第1作『ダイナー』に登場する、まさにそのダイナーである。
 
ニューヨークでウォルター(ビル・プルマン)はアニーを5番街のティファニーに連れて行き、店でサイズを直してもらった母親の指輪をプレゼントする。ここは『ティファニーで朝食を』で、オードリー・ヘプバーンとジョージ・ペパードが、お菓子(クラッカージャック)のおまけの指輪にイニシャルを彫ってもらう場面の引用だろう。
ラストシーンのエンパイア・ステート・ビルは数え切れないほど映画に登場するニューヨークのロケ名所。ただし、この映画では玄関ロビーと守衛のいる受付はロケだが、肝心の屋上は撮影用のセットで、本物の屋上より少し広め。ここに来る前に、アニーがウォルターと“ドンペリ”を飲み、別れを告げるレストランは、ロックフェラー・プラザ65階にあるレインボールーム。2009年に一時閉鎖されたが、今年7月から営業が再開されたとのことなので、ニューヨークの豪華な夜景を見ながら豪華な食事を楽しみたい方はぜひ。ただし、ドレスコードがあるので、お出かけの際は必ず正装のこと。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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