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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『最高の人生の見つけ方』2011/09/16 UP 放送日時

生きたかった人生を生きるために

『最高の人生の見つけ方』の主人公エドワード・コール(ジャック・ニコルソン)は、一代で10億ドルを稼ぎあげた大金持ち。結婚も4度したが、今、そばにいるのは忠実な秘書トーマス(ショーン・ヘイズ)だけ。一方のカーター・チェンバース(モーガン・フリーマン)は、クイズマニアの自動車修理工。歴史学の教授になりたかったのに、妻の妊娠で大学を中退、生活費を稼ぐために修理工になり、40年以上実直に働いてきた。貧しいが、暖かい家族に囲まれている。そんな正反対の二人が末期癌に罹り、偶然同じ病室になる。辛い化学療法を耐えるうちに、二人は“戦友”になる。が、治療の甲斐なく、二人とも“もって1年”の余命宣告を受けてしまう。過度の治療を断ったエドワードは、カーターが書いた“棺桶リスト”(死ぬまでにやっておきたいことのリスト)を見て、癌がさらに進行する前に、二人で実行しようと提案する。
 
物語はこんな風に進んでいくのだが、最初に見たとき、私は思わぬ偶然に笑ってしまった。この映画は2007年の製作だが、当時、私も自分なりの“棺桶リスト”を作って実行していたからだ。もっとも、エドワードとカーターのリストは絢爛豪華。スカイダイビングを皮切りに、専用ジェットで世界を駆け回り、アフリカでサファリをしたり、ピラミッドのてっぺんに立ったり、万里の長城をバイクで駆け抜けたりする。私の方は遙かに慎ましく(なにせ資金がない)、5年かけて“オーロラを見に行く”、“マチュピチュに行く”の2つを達成、その次の“エベレストを見に行く”の準備にかかったところだった(ここだけ二人のリストと一致する)。とはいえ、私は彼らのように末期癌でも何でもないから、お金のない分、時間に余裕があり、その後2年かけて“エベレスト”を達成(頂上に登ったわけではありません。以念)、今に至っている。
 
エドワードとカーターが棺桶リストを実行していくところは一種の“大人のお伽話”だが、死を前提にしているだけに、重い映画でもある。もし、あなたが癌患者で、彼らのように余命宣告されたら、死ぬまでの時間をどう過ごす? 自分の死をそう簡単に受け入れることが出来るだろうか? 体の痛みは? 心の苦しみは? この映画の“死”はハリウッド流に砂糖のコーティングがなされているけれど、どれほど周りが甘ったるかろうと、芯にあるのは、苦く辛い現実である。
 
自分の死ぬ日を知るのは残酷だが、突然迎える死は、それ以上に残酷だと私は思う。ちょうど世紀が変わる頃、肉親、親友、知人を次々に亡くし、私は自分の死について、それまで以上に真剣に考えるようになっていた。臨終の時になって“あれをやっておけばよかった”と後悔するのは絶対に嫌だ。私は仮に自分の死ぬ日を設定し、そこから逆算して、実行可能な“棺桶リスト”を作ってみたのだった。こう言うと悲壮に聞こえるかもしれないが、実際にやってみると、自分でも思いがけない展開になった。学生時代には敬遠していたスキーを始めたり、ヒマラヤにトレッキングに行ったり、“食わず嫌い”で、やろうとも思わなかったことに挑戦した途端、今まで見えなかった別バージョンの自分が見えてきたのだ。
 
エドワードとカーターも同じだったのではないか。正反対の境遇の二人が、死を前に親友になり、それまで互いの人生に欠けていた人生を歩む。期間は短かったけれど、そうやって人生を二度生きたのではないだろうか。
 
永遠に生きられる人間はいない。死は誰にでも平等に訪れる。震災で死を身近に感じた今、この映画が語りたかったことが、前よりはっきり感じとれるようになったと私は思う。別に癌にならなくても、人はいつ死ぬかわからないし、必ずいつかは死ぬ。今からでも遅くない、心残りを抱いて死ぬより、生きたかった人生を生きてみよう、と。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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