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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『ヴァン・ヘルシング』2011/07/08 UP 放送日時

怪奇映画アドベンチャーランドにようこそ

幽霊といえば、日本では浴衣や団扇と並んで夏の季語のようなものだけど、外国ではどうなんだろう。イギリスの古城に幽霊が出るという話はよく聞くけど、夏に限ったことではなさそうだし、第一、イギリスには日本のような四季はなさそうだから、幽霊だって季節感とは無縁なはすだ。ともあれ、日本人にとっては、怪談は断固として夏のものだし、遊園地の幽霊屋敷も暑い真夏じゃないと気分が出ない。スティーヴン・ソマーズの『ヴァン・ヘルシング』は、そんな遊園地の幽霊屋敷に入っていくような、楽しい“おどろおどろしさ”に満ちた映画で、夏に見るのにぴったりである。

主人公は、ヴァチカンからお墨付きを貰った正式なモンスターハンター、ヴァン・ヘルシング(ヒュー・ジャックマン)。世界をまたにかけて異端の怪物を退治しまくっている彼は、パリのノートルダム寺院で怪物ハイド氏を倒した後で、今度はドラキュラ退治を命じられる。土地の領主ヴァレリアス一族は、ドラキュラ伯爵(リチャード・ロクスバーグ)と450年闘い続けて、今は末裔のヴェルカン王子(ウィル・ケンプ)とアン王女(ケイト・ベッキンセイル)の兄妹を残すのみ。彼らがドラキュラ伯爵を倒さなければ、一族は煉獄に落ちたまま、永遠に天国へ行けないのだ。ヴァン・ヘルシング自身も自分の出生の秘密がそこにあることを知らされ、発明好きの僧カール(デヴィッド・ウェンハム)を連れて、トランシルバニアに乗り込むのだが…。

トランシルバニアとはルーマニア西部にあるドラキュラ伝説の故郷である。ドラキュラのモデルは、串刺し公と呼ばれたワラキア公ヴラド3世。彼の父ヴラド2世がドラクル(竜公)と呼ばれていて、ドラクルの子だからドラキュラとなったのだそうだ。この時点でドラキュラには吸血鬼という意味はない。ヴラド3世ドラキュラ公が吸血鬼伝説と一体化して吸血鬼ドラキュラ伯爵となったのは、ブラム・ストーカーの小説<ドラキュラ>が19世紀末に出版されてから。この小説の中で、アムステルダム大学名誉教授として登場するのがエイブラハム・ヴァン・ヘルシング医師で、もともとは恰幅のよい60歳の精神医学の学者だった。

ヴァン・ヘルシングが医学博士から吸血鬼ハンターに転職するのは、小説<ドラキュラ>が舞台化される際に、主役がドラキュラからヴァン・ヘルシングに移ってからのこと。映画化でもこの方式が踏襲され、特に有名なのが、イギリスのハマー・フィルム製ホラー映画でヴァン・ヘルシングを演じたピーター・カッシングである。長らくヴァン・ヘルシングといえば、彼の知的な紳士のイメージで定着した。

今回の『ヴァン・ヘルシング』は、そんなクラシックなイメージを一新する。1932年の『ミイラ再生』を現代的にリメイクした『ハムナプトラ』で当てたスティーヴン・ソマーズが、続いてドラキュラ映画の“ハムナプトラ化”を企てたものだからだ。『ハムナプトラ』の特徴は、CGを多用した特撮、スピーディーなアクション、テーマパークのような楽しさにあり、『ヴァン・ヘルシング』も同じ路線を踏襲した。パワーアップしたのはアクションの部分で、ドラキュラ伯爵にはコウモリの化身のような3人の“花嫁”がいて、空中を飛び回りながら自在に襲いかかる。彼女達のようなタフで強烈な敵と闘うには、やはり、若くて、アクションが出来て、脱いでも凄いヒュー・ジャックマンのような肉体派ヴァン・ヘルシングがぴったりだ。

面白いのは、ホラー映画ファンであるソマーズのおたくぶりが、あちこちに散りばめられていること。ハマー・フィルム版ホラー映画はもとより、ロマン・ポランスキーの『吸血鬼』やメル・ブルックスの『ヤング・フランケンシュタイン』などのスピンオフ映画のテイストまで取り込んで、ちょっと凝ったパロディに仕立てている。

しかし、『ハムナプトラ』には続編が出来たのに、『ヴァン・ヘルシング』に続編が出来なかったのが惜しまれる。ドラキュラ伯爵だけに絞ればよかったのに、ジキル博士とハイド氏からフランケンシュタイン博士と怪物、狼男などなど、ホラー映画のアイテムをこの1本に全部詰め込んでしまったからだろう。ソマーズの旺盛なサービス精神には脱帽するのだけれど。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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