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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『リーサル・ウェポン』2011/06/10 UP 放送日時

アクション映画にバブルが起こったとき

『リーサル・ウェポン』が公開された1987年、日本では今まさにバブル景気が始まろうとしていた。アルマーニのソフト・スーツを着込んだヤンエグ男が、帆のように前髪を立てたワンレン・ボディコン女をナンパし、空間プロデューサーのデザインしたカフェバーに通って、高級ブランドのバッグやアクセサリーをせっせと貢いだあの日々。節約が合い言葉の今から思うと、すべてが嘘っぽく、ギラギラしていた。そんな時代に大ヒットしたのが、イカれた刑事リッグスと温厚な刑事マータフの凸凹コンビが大活躍するアクション映画『リーサル・ウェポン』とそのシリーズだった。
 
“リーサル・ウェポン”とは凶器または破壊兵器のこと。自殺志願者と共にビルから飛び降りるような、命知らずの刑事リッグスの別名でもある。演じるのは当時31歳のメル・ギブソン。ジョージ・ミラーの『マッドマックス』3部作とピーター・ウェラーの『危険な年』というオージー印のアクション映画で頭角を現し、ハリウッドに進出したところだった。もう一方の温厚な刑事マータフを演じるダニー・グローヴァーは当時41歳。舞台出身の実力派だが、映画では1984年の『プレイス・イン・ザ・ハート』の綿作りを教える農夫役で認められ、ピーター・ウェラーの『刑事ジョン・ブック/目撃者』、ローレンス・カスダンの『シルバラード』、スティーヴン・スピルバーグの『カラーパープル』と、メジャー作品に地歩を固めていたところ。二人にとって『リーサル・ウェポン』は、押しも押されもしない大スターへステップアップするきっかけとなった作品だ。
 
ストーリー自体は、戦友の娘の死の背後にある麻薬組織を追うというシンプルなものだが、もちろんそれは単なるマクガフィンで、映画の見所は、何もかも正反対な二人の刑事が、捜査を通じて次第に打ち解けあい、親友同士になっていくその過程にある。オーストラリアからやってきた“マッドマックス”ことメル・ギブソンと、舞台のベテラン俳優ダニー・グローヴァーは、ハリウッド的な認知度はまだまだ低かった。そんな二人を活かすため、脚本のシェーン・ブラックはキャラクター設定を意識的に正反対にしている。
 
白人で若いリッグスは、何をやり出すかわからないハチャメチャな男。特殊部隊出身で、射撃の腕前は世界で10本の指に入るほど。妻を亡くして以来、自暴自棄となり、浜辺のトレーラーハウスに独りで住み、ペットは犬。黒人のマータフは、妻と3人の子供がいるよき家庭人。50歳の誕生日を迎え、老いを自覚している。ペットは猫、という具合。続編が作られ、シリーズ化すると、リッグスの自殺願望はさすがに薄れるが、二人の掛け合いの面白さは、ますます磨きがかかり、アクション・コメディ映画といってもいいくらいにヴァージョンアップしていく。
 
陽光あふれるロサンゼルスのクリスマスに、漫才コンビのような2人組の刑事が、火薬と弾丸をたっぷり使って事件を解決するという、ど派手な『リーサル・ウェポン』の登場は、『ダーティハリー』を代表とするハードボイルド系アクション映画の流行が続いていた時代に、とても強烈で新鮮だった。アクション映画にバブル景気が起こったようなものだろう。そう思うと、一匹狼の刑事が“男は黙って”のダーティハリー型から、“世界一運の悪い”ジョン・マクレーン型に変わったきっかけも、『リーサル・ウェポン』だったような気がしてくる。
 
監督は『オーメン』から『スーパーマン』、『グーニーズ』まで、何でも手がける職人リチャード・ドナー。製作はドナーとジョエル・シルヴァーの共同で、シルヴァーはこのあとジョン・マクティアナンと組んで『プレデター』、『ダイ・ハード』を大ヒットさせ、ジェリー・ブラッカイマーと並ぶアクション映画の大家となる。アクション映画にバブルを持ち込んだ張本人は、案外シルヴァーだったのかもしれない。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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