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映画の処方箋

何気なく観ていたアノ映画も、知れば「なるほど!」映画評論家 斎藤敦子が
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『グッドフェローズ』2011/05/13 UP 放送日時

マフィアになれなかった男達の運命

今年のカンヌ映画祭審査員長はロバート・デ・ニーロだが、デ・ニーロとカンヌには意外に深い縁がある。彼は1973年に盟友マーティン・スコセッシの監督デビュー作『ミーン・ストリート』でジョニーボーイを演じ、全米映画批評家協会賞の助演男優賞を受賞して注目され、翌年『ゴッドファーザーPART?』で、マーロン・ブランドが演じたドン・コルレオーネの青年時代役に抜擢されて、メジャーな映画界に進出する足がかりを作った。だが、その名を世界的にしたのが、再びスコセッシとのコンビで作った『タクシードライバー』で、1976年のカンヌ映画祭で最高賞のパルム・ドールを獲得したことだった。その後も、83年にスコセッシとのコンビの『キング・オブ・コメディ』で、86年にローランド・ジョフィの『ミッション』で、91年にアーウィン・ウィンクラーの『真実の瞬間』でと、コンペ部門だけでも、たびたび登場している。
 デ・ニーロ&スコセッシという黄金コンビには、アメリカの裏社会を舞台にした名作が数々あるが、なかでも最高傑作が『グッドフェローズ』だと私は思う。映画の原作はニコラス・ヴィレッジの<ワイズガイ>(邦題<グッドフェローズ>)。1978年12月に起こったルフトハンザ強奪事件の実行犯の一人で、FBIとの取引により、主犯のジミー・バーク(映画ではジミー・コンウェイ)逮捕に協力したヘンリー・ヒルの証言を基に書かれたノンフィクション小説だ。映画は原作に沿ってヒルを語り手としているのでヒルがストーリーの中心になっているが、本物の狂気を体現したデ・ニーロの貫禄の演技がなければ成り立たない映画である。
 ヘンリー・ヒル(レイ・リオッタ)はニューヨークのブルックリンで、アイルランド移民の父とシチリア出身の母の下に生まれた。家の向かいが地元のマフィアの親分“ポーリー”ことポール・シセロ(ポール・ソルヴィーノ)の家で、幼い頃から羽振りのいいマフィアの生活をあこがれの目で見て育った。やがて学校をサボってポーリーの下で使い走りとなってマフィアの世界に足を踏み入れ、裁判で口を割らなかったことで認められ、頭角を現していく。そんな中、殺しと強盗の凄腕として一目置かれているジミー・コンウェイ(ロバート・デ・ニーロ)に紹介される。ジミーはヘンリーとトミー(ジョー・ペシ)を仲間に引き入れ、何度か大きな強盗事件を成功させた後、ルフトハンザ航空の貨物強奪という大きな山に目を付ける。しかし、現金500万ドルというアメリカ史上最高の強奪金が事件に関わった男達の間に狂気を呼び込み、ヘンリーがマフィアを裏切るきっかけとなるのだ…。
 マーティン・スコセッシはニューヨークのリトル・イタリーで生まれた。当時のリトル・イタリーはまだ『ゴッドファーザー』で描かれていたようなマフィアの街で、スコセッシはまさにヘンリーのような少年時代を送ったのだった。ただ一つ違うのは、ヘンリーがマフィアに憧れ、人生の師としたのに対し、聖職者を志したスコセッシは反面教師としたことだ。表の職業を持ち、普通の生活を送る男達に隠された裏の顔。日常の中に狂気が入り交じった、奇妙で危険な世界。これこそ幼い頃から身近に彼らと接してきたスコセッシならではの世界観であり、スコセッシの描くマフィアが他の映画監督のマフィアと違う大きな特徴である。
 もう1つ、スコセッシの映画に欠かせないのが裏切りのテーマである。信頼と裏切りはキリスト教信仰とも切っても切れないテーマでもある。ヘンリーは、父親がアイルランド人で、ユダヤ系の妻を持ったがゆえに、マフィアの正式な構成員になることが出来なかった。それはアイルランド系のジミーも同じで、彼ら、マフィアの中にいながら、ファミリーになることが許されない男達を主人公にしたところが、いかにもスコセッシらしい。そして、最後の裏切りの瞬間。ジミーに呼び出されたヘンリーがダイナーで彼と会う場面で、FBIにジミーを売ることを決意したヘンリーと、それを知りながら平然と殺しを依頼するジミー。ユダとユダの邂逅。トラッキングバック&ズームアップという手法で撮られたこの場面の一見普通に見える異様さは、スコセッシ演出の白眉であると私は思う。撮影監督は名匠ミヒャエル・バルハウス。ヘンリーがヘレン(ロレイン・ブラッコ)をキャバレー“コパカバーナ”へ連れていく場面の長い長い1シーン1カットは、何度見ても惚れ惚れする。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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