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「カンヌ映画祭・注目のラインナップ」2011/04/28 UP

カンヌ映画祭・注目のラインナップ

 今年も5月11日からカンヌ国際映画祭が始まる。それに先立つ4月14日、パリで開かれた記者会見でコンペティション部門のラインナップが発表された。それによると、今年はウッディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』をオープニングに、例年より若干少なめの19本でコンペティション部門の賞が競われる。ディレクターのティエリー・フレモーによれば、アート系の作品と商業的な作品が半々となり、"映画界に不況の出口が見えてきた感のあるセレクション"となったそうだ。ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟、ナンニ・モレッティ、ラース・フォン・トリアーという既にパルム・ドールを受賞した監督や、ペドロ・アルモドバルやアラン・カヴァリエ、ヌリ=ビルゲ・ジェイラン、アキ・カウリスマキなど受賞経験のあるベテラン監督が顔を揃えているもの特徴の1つだ。
 
 中でも一番の注目は、なんといってもテレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』だろう。実はこの作品は、昨年もコンペティション作品として名前が挙がっていて、カンヌもギリギリまで枠を空けて待っていたのだが、結局、完成が間に合わなかったという経緯がある。以来、さらに1年待っての登場となるのは、それだけマリックに対する期待の大きさを感じさせる。マリックは1979年のカンヌで『天国の日々』で監督賞を獲っているのだが、この年はコッポラの『地獄の黙示録』とシュレンドルフの『ブリキの太鼓』がパルム・ドールを同時受賞した年。戦争をテーマにした強烈な2本と並んで評価されたのは不運だったが、30年後の今、『天国の日々』の評価は以前に増して高まっており、その後、半ば映画界から引退した形となったマリックには、プロの映画人の間からカルト的な人気が集まっている。『ツリー・オブ・ライフ』で主演とプロデューサーを務めたブラッド・ピットや、厳格な父(ピット)の成長した息子を演じるショーン・ペンもそんなマリック信者といっていいだろう。
 
 日本映画にとっての嬉しい驚きは、河瀬直美の『朱花(はねづ)の月』と三池崇史の『一命』の2本がコンペに入ったことだ。フレモーの言葉を裏付けるかのように、アート系の河瀬と商業系の三池に見事に別れた2本ではある。
河瀬直美は長編デビュー作の『萌の朱雀』を1997年に監督週間に出品し、新人賞カメラ・ドールを受賞、2003年に『沙羅双樹』でコンペティション部門に初登場し、2007年に『殯(もがり)の森』で審査員グランプリを受賞と、順調にキャリア・アップしてきた。河瀬は海外で着実にファンを増やしているし、彼女のようなテーマのはっきりしたアート系作品は国際映画祭で賞が獲りやすいことは確かだ。
 
一方の三池崇史といえば、実は『オーディション』や『殺し屋1』が海外のファンタスティック系映画祭で注目されていた頃からアプローチし、昨年『十三人の刺客』をコンペティション部門に選ぶなど、世界に三池の名を浸透させる努力をしてきたのはヴェネチア映画祭だった。この辺、いち早く有望な才能を招聘したい映画祭のライバル意識が感じられる。カンヌ映画祭は北野武の『ソナチネ』を「ある視点」で上映したものの、その後、北野をヴェネチア映画祭に獲られた経緯があるので、今年、三池がもし何らかの賞を獲ることになれば、ヴェネチア映画祭に一矢報いることになるかもしれない。
 
 私が個人的に注目しているのはイタリアの俊英パオロ・ソレンティーノの『THIS MUST BE THE PLACE』だ。日本でソレンティーノ作品は1本も未公開で知名度はいまいちだが、イタリア映画祭では紹介されていて、『愛の果てへの旅』や『イル・ディーヴォ』などのスタイリッシュな映像表現とクールな世界観にファンになった人も多いと思う。特に私は、黒い噂のあるイタリアの元首相ジュリオ・アンドレオッティを実名でカリカチュアした『イル・ディーヴォ』が大好きで、2008年のカンヌ映画祭で一番のお気に入り映画だった。今回の新作は、ソレンティーノ映画の顔トニ・セルヴィッロとショーン・ペンが共演する初の英語映画だそう。実は2008年に審査委員長を務めたのがショーン・ペンだったから、新作への出演オファーがしやすかったのかもしれない。
 
 さて、今年の審査員長はロバート・デ・ニーロである。デ・ニーロはどんな映画が好きで、どんな映画を評価するのだろう。その後発表になった審査員達(ユマ・サーマン、ジュード・ロウ、ジョニー・トーら計9人)の顔ぶれを思い浮かべながら、受賞作を予想してみるのも楽しいだろう。

斎藤敦子

ライター 斎藤敦子

映画評論家。パリで映画編集を学ぶ。フランス映画社宣伝部勤務を経てフリー。「サウルの息子」、「スポットライト 世紀のスクープ」などの字幕翻訳、「ピアノ・レッスン」(新潮文庫)「奇跡の海」(幻冬舎文庫)「パリ快楽都市の誘惑」(清流出版)などの翻訳書も。

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